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だが、その多くが勧善懲悪物で、事件もきちんと解決する往年の西部劇に比べると、本作は、決していい母親ではないミルドレッド、末期がんに侵された好漢ウィロビー警察署長(ウディ・ハレルソン)、マザーコンプレックスで暴力的で差別主義者のディクソン巡査(サム・ロックウェル)といった、悩み多き人物たちの心情や行動、そして迷宮入りの事件を描き込むことで、人間の心の闇の深さや、多面性を浮き彫りにしていく。そこに現代性が強く感じられるのだ。
監督・脚本はアイルランド系イギリス人のマーティン・マクドナー。北野武の映画に影響されたという唐突な暴力シーンとブラックな笑い、冒頭と途中に流れるアイルランド民謡「庭の千草」の切なさが共存するところが、あたかも、本作の一筋縄ではいかない流れを象徴するかのようで面白い。アカデミー賞での脚本、主演女優賞の受賞は有力と見た。(田中雄二)