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【映画コラム】ディズニー創立90周年記念『アナと雪の女王』と『ウォルト・ディズニーの約束』

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 ディズニー社の創立90周年記念のアニメーション映画『アナと雪の女王』が好評公開中だ。

 触れたものを凍結させてしまう秘密の力を持ったエルサ王女は心に傷を負い、王国を冬の世界に変えたまま、雪山の奥深くへと逃げ込んでしまう。妹のアナは姉と王国を救うべく姉の後を追うが…。

 アンデルセンの童話『雪の女王』をヒントにした本作は、古くは『白雪姫』(37)『シンデレラ』(50)『眠れる森の美女』(59)、最近では『塔の上のラプンツェル』(10)『メリダとおそろしの森』(12)といったディズニーお得意の“プリンセス物語”の系譜に連なる。

 だが、そうした伝統を踏まえながら、性格が対照的な王家の姉妹というダブルヒロインの創造、再現が難しいとされる雪と氷と水の世界を立体的に表現した技術などで新味を出すことも忘れてはいない。そして雪だるまのオラフとトナカイのスヴェンがコメディーリリーフの役割を果たしている。

 また、ブロードウェーの実力派を声優に起用したことが大いに効果を発揮し、オーソドックスなミュージカルとしても見応えのある作品となった。エルサ役のイディナ・メンゼル(日本語版は松たか子)が歌いアカデミー賞の主題歌賞を受賞した「レット・イット・ゴー」をはじめ、耳に残る曲も多い。

(C)2013 Disney Enterprises,Inc.

 ところで『アナと雪の女王』と同時上映されている短編『ミッキーのミニー救出大作戦』のミッキーマウスの声はディズニー社の生みの親であるウォルト・ディズニーの声をアーカイブから抽出して使用している。

 そのウォルトが登場する初のドラマ映画で、実写とアニメを融合させた名作『メリー・ポピンズ』(64)製作の舞台裏を描いた『ウォルト・ディズニーの約束』も公開中だ。

 物語の中心に描かれるのは、原作の映画化を熱望するウォルト(トム・ハンクス)と映画化をかたくなに拒む原作者パメラ・L・トラバース(エマ・トンプソン)の対立と彼らの間に入って困惑するスタッフの姿だ。

 そして、原題の「Saving Mr.Banks=バンクス氏を救え」が示すように、実はメリー・ポピンズが救済したのは子どもたちではなく彼らの父親で銀行に勤めるバンクス氏だった、それはパメラの父親(コリン・ファレル)に対する無念の思いの反映であり、ウォルトもまた父親に対して屈折した思いを抱いていたという隠された事実を、回想を交えながら明らかにしていく。

 つまり『アナと雪の女王』が姉妹の物語ならば、こちらは父と子の物語なのだ。映画の製作を通してトラウマから解放され、変化していくウォルトとパメラの関係が見どころとなる。

 監督は『オールド・ルーキー』(02)『しあわせの隠れ場所』(09)など“実話映画”を得意とするジョン・リー・ハンコック。ハンクス、トンプソンの名演技に加えて、脚本家役のブラッドリー・ウィットフォード、運転手役のポール・ジアマッティもなかなかいい味を出している。

 また、シャーマン兄弟が作詞・作曲した「チム・チム・チェリー」「お砂糖ひとさじで」「スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス」「2ペンスを鳩に」「凧をあげよう」などの名曲が生み出される過程も描かれる。特に「凧をあげよう」に関するエピソードは感動的。本作を見れば本家の『メリー・ポピンズ』が見たくなること請け合いだ。

 今春はアニメと実写の両面からあらためてディズニー映画の魅力を知る絶好の機会となる。(田中雄二)