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【映画コラム】 辞書作りのハウツーを映像で見せる『舟を編む』

(C)2013「舟を編む」製作委員会

 出版社に勤める馬締(まじめ)は、営業部で持て余されていたが、言葉に対する天才的なセンスを見いだされ、辞書編集部に異動になる。彼は新たな辞書『大渡海(だいとかい)』の編集作業に没頭していくが…。三浦しをんのベストセラー小説を映画化した『舟を編む』が4月13日から全国公開される。

 本作は“舟(辞書)を編む(編集する)”人々を主人公にした珍しい逸品。一冊の本が作られる工程(企画、準備、調査、取材、執筆、編集、入稿、校正、印刷、営業…)を詳細に描いていく。分厚く、膨大な内容を記載した辞書が、いかにして作られるのかというハウツーを映像で見る楽しさがある。

 たくさんの言葉を知りながらコミュニケーションが苦手な主人公・馬締に松田龍平。その他の編集部員に、お調子者の先輩のオダギリジョー、編集主幹の加藤剛、大ベテランの小林薫と伊佐山ひろ子、新加入の黒木華らを配し、彼らの心のこもった仕事を通して、電子ではない紙の辞書の魅力をあらためて知らしめる。映画を見ているうちに、彼らが作る辞書が欲しくなってくること請け合いだ。

 ところで、本作は先に紹介した『横道世之介』との共通点が多い。まず、どちらもベストセラー小説を若手の監督が映画化した点。『横道世之介』の沖田修一監督は35歳、本作の石井裕也監督は29歳という若さだ。にもかかわらず彼らは、デジタルの時代にあえてアナログなフィルムで撮影し、今からそう遠くない過去の二つの時代(『横道~』は1987年と2003年、本作は95年と10年)を見事に描いて見せた。そして、両作とも、骨子は一人の若者の成長物語でありながら、彼と関わるさまざまな人々の群像劇として描いた点でも秀逸な映画になっている。どちらも、ユーモアとペーソスに満ちた新たな形の“人間喜劇”と言ってもいいだろう。日本映画の若手監督はなかなかいい仕事をしている。(田中雄二)

公開情報 『舟を編む』
配給:松竹 アスミック・エース
出演:松田龍平、宮崎あおい、オダギリジョー、黒木華、渡辺美佐子、池脇千鶴、鶴見辰吾、伊佐山ひろ子、八千草薫、小林薫、加藤剛
原作:『舟を編む』三浦しをん(光文社刊)、脚本:渡辺謙作、監督:石井裕也
2013年4月13日(土)丸の内ピカデリーほか全国ロードショー。

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