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NHKで放送中の大河ドラマ「どうする家康」。3月26日に放送された第12回「氏真」では、戦国大名・今川家の最後が描かれた。その中でスポットが当たったのが、当主・今川氏真(溝端淳平)だった。
武田と徳川に攻められた上、家臣にことごとく裏切られて味方を失った氏真は、岡部元信(田中美央)から潔く腹を切るよう勧められるが、思い直して掛川城にこもり、主人公・徳川家康(松本潤)との決戦に挑む。
結果的に四カ月も抵抗を続け、家康を苦戦させた氏真だったが、最後は城に乗り込んできた家康と、妻・糸(志田未来)の説得に応じて投降。氏真は糸と共に糸の実家である北条へ身を寄せ、生き延びることとなった。
今川家の後継者となる運命を背負って生まれた氏真。だが、ここまでの人生は、果たして幸せだったといえるのか。
松平家から人質として預けられていた家康とは兄弟のように育ったものの、立場は自分が上であるにもかかわらず、武芸の実力は劣る。父・義元(野村萬斎)からも「そなたに将としての才はない」と、現実を突きつけられ、プレッシャーを感じていたはずだ。
史実を振り返ってみても、氏真は武芸よりも蹴鞠(けまり)や和歌など、文化的な才能に長けていたことが知られている。しかし、戦国大名・今川家の後継者という立場が、氏真にその才能を生かす生き方を許さなかったし、本人もそれをよしとしてこなかった。
現代では「ありのままの自分を受け入れる」という生き方はだいぶ認められつつあるが、それでも、実際にそれを選択することは容易ではない。人間はどうしても、本来持って生まれた自分と、周囲が期待する自分の姿との間で葛藤するものだ。
そんな考えがみじんもなかった戦国時代に生まれた氏真であれば、なおさらだ。日夜、ひそかに武芸の訓練に励む氏真の姿を知っていた義元は「己を鍛え上げることを惜しまぬ者は、いずれ必ず天賦の才ある者をしのぐ。きっと、よい将になろう」と糸に語っていた。