X


【大河ドラマコラム】「鎌倉殿の13人」第22回「義時の生きる道」絶頂を極める源頼朝の歩みに北条義時の生きざまを絡めた鮮やかな構成

 NHKで放送中の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」。6月5日放送の第22回「義時の生きる道」では、天下を平定した源頼朝(大泉洋)が征夷大将軍へと駆け上がり、絶頂を極めるまでの歩みとともに、愛妻・八重(新垣結衣)を失った悲しみに沈む主人公・北条義時(小栗旬)の再生が描かれた。

北条義時役の小栗旬 (C)NHK

 振り返ってみると、この回で取り上げた主な史実は、頼朝の上洛、後白河法皇(西田敏行)の死、頼朝の征夷大将軍就任、頼朝の息子・源実朝の誕生といったところ。ここに、「曽我物語」で有名な曽我兄弟の敵討ち事件に至る流れを伏線として絡め、数年にわたる物語となっていた。

 だが、頼朝の上洛に随行するなどの出来事があったとはいえ、いずれも主人公である義時が中心にならない史実ばかり。その代わりこの回では、数々の史実の合間を縫って、八重が遺した孤児たちの世話に奮闘する中で悲しみを紛らわせようとする姿、親として息子の金剛に向き合う姿など、1人の人間としての義時の生きざまが描かれた。

 このやり方は、下手をすればエピソードの羅列に終わり、物語としては散漫な印象を残しかねない。しかしこの回では、敵討ちを装った曽我兄弟の陰謀と父・時政(坂東彌十郎)との関りを知る形で、別々に進んでいた義時の生きざまと史実をラストで合流させ、違和感なく一つの物語にまとめ上げている。

 史実とそこに出てこない義時の人生の絶妙なバランスも含め、鮮やかな構成に改めてうならされた。

 さらに、物語の構成という点に着目すると、この回では数年に及ぶ史実を扱っていたが、前回は奥州藤原氏の滅亡からほんの数カ月の出来事。過去には、わずか数日に絞った回もあるなど、毎回扱う時間の幅も自由自在。

 その一方、この回では、鶴岡八幡宮や義時の家を焼いた建久2年の大火を省略。必要な史実を見極めて取捨選択し、一つの物語に編み上げる構成力は毎回、見事というほかない。

 また、義時を演じる小栗の演技にも目を見張るものがあった。悲しみに沈む冒頭から、姉・政子(小池栄子)や比企一族の娘・比奈(堀田真由)との交流を経て徐々に笑顔を取り戻し、曽我兄弟の陰謀を知るラストで眼光の鋭さを取り戻すまで、義時の変化を繊細に表現。各場面における小栗の表情を見比べてみれば、その微妙な違いに気付くはずだ。

 しかも、大河ドラマの撮影が回ごとではなく、何話もの台本の間を行き来しながら行われていることを考えると、場面ごとに的確な表情を見せる小栗の表現力には、やはり並々ならぬものがある。

 一見バラバラな史実にフィクションの混じった義時の生きざまを交差させつつ、八重を失った義時が人生を模索する物語にまとめ上げる。派手な出来事こそなかったものの、「義時の生きる道」のサブタイトルに偽りない見応えある物語に仕上がり、第一線のスタッフとキャストがそろった大河ドラマの真価を改めて思い知った回だった。

(井上健一)

北条政子役の小池栄子(左)と源頼朝役の大泉洋 (C)NHK