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異彩を放つタビアーニ兄弟の傑作
また、ガス・バン・サントの初期の作品で、リバー・フェニックスとキアヌ・リーブスが主演した青春映画『マイ・プライベート・アイダホ』(91)は、『ヘンリー四世』と『ヘンリー五世』がベース。ドリュー・バリモア主演の『25年目のキス』(99)は『お気に召すまま』、『恋のからさわぎ』(99)も『じゃじゃ馬ならし』をベースにした現代劇だ。
シェークスピア俳優として知られ、『シェイクスピアの庭』(18)ではシェークスピア自身を演じたケネス・ブラナーの監督作『恋の骨折り損』(00)は、『ウエスト・サイド・ストーリー』と同様にミュージカル映画にアレンジされている。
そんな中、一際異彩を放つ傑作としてお薦めしたいのが、イタリア映画『塀の中のジュリアス・シーザー』(12)。名匠タビアーニ兄弟によるベルリン国際映画祭金熊賞受賞作で、服役中の囚人たちが『ジュリアス・シーザー』を上演するまでの演劇実習を追ったもの。
ところが、ドキュメンタリーだと思って見ていると、次第に虚実の垣根が曖昧になり、せりふも、せりふなのか囚人自身の発言なのか、あるいは劇中劇のせりふなのか見分けがつかなくなる。その陶酔感! 話題の『ドライブ・マイ・カー』にも通じる、映画と演劇の融合に酔いしれてほしい。
『ロミオとジュリエット』からの派生作品
最後に、『ロミオとジュリエット』から派生した映画にも触れておきたい。ミュージカルではないが『ウエスト・サイド・ストーリー』に最も近いのが、アベル・フェラーラの『チャイナ・ガール』(87)だろう。1980年代のニューヨークを舞台に、人種問題やギャングの抗争を絡めて描かれる。
日本映画の『雷桜』(10)も、『ロミオとジュリエット』を下敷きにした時代小説の映画化だ。同じく日本映画では、第三舞台の鴻上尚史が監督した『ジュリエット・ゲーム』(89)も。さらには、『ウォーム・ボディーズ』(13)というゾンビコメディーに翻案したものまである。
そして、極め付きは、アカデミー賞を受賞した『恋におちたシェイクスピア』(98)だ。シェークスピアが『ロミオとジュリエット』を書き上げるまでの誕生秘話を、恋を絡めて描いた、今はやりのバックステージもので、ヒロインの男装など、シェークスピア劇を特徴づけるさまざまな要素が盛り込まれている。
直接の映画化ではなく、派生作品だからこそ、監督をはじめとする映画サイドの才気がほとばしる。その相乗効果、シェークスピアとのケミストリーを、ぜひ味わってみて。
(外山真也)