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その証拠に、苦難続きのこの回でも、栄一はかつてのライバル、岩崎弥太郎(中村芝翫)の孫娘・登喜子(今泉マヤ)を敬三の妻に迎え、関東大震災で被災した際は、廃嫡で疎遠になっていた息子の篤二(泉澤祐希)と再会。ささやかながら、「和解」という成果を手に入れた。
針ほどしかかなわなかったとしても、棒ほどの願いを持って、全力で生き抜く。まさにこの物語の主人公・渋沢栄一にふさわしい生きざまを最後まで貫いた最終回だった。演じた吉沢も最後の最後まで見事な熱演を見せ、「新一万円札の人」に過ぎなかった渋沢栄一を、生き生きとした人物として見る者の心に焼き付けた。
さらに言えば、例年に比べて放送回数が少なくなるなど、コロナ禍という苦しい状況に直面しながらも、最後まで手を抜かず、心に残る物語を生み出した制作現場の在り方自体が、渋沢栄一の生きざまそのものだったのではないだろうか。それを裏付けるように、吉沢自身がインタビューで「渋沢栄一という人物をみんなで作り上げていった感覚がすごくあります」と語っている。
そんな全ての関係者への感謝を込めつつ、最後の締めくくりとして、最終回の冒頭で徳川家康(北大路欣也)が語っていた言葉を振り返っておきたい。
「渋沢栄一の物語を閉じるに当たって、ぜひ皆さんに感じていただきたいことがあります。真心を込めて切り開いた彼らの道の先を歩んでいるのは、あなた方だということを。ぜひに」
(井上健一)