【大河ドラマコラム】「青天を衝け」最終回「青春はつづく」渋沢栄一らしい生きざまを最後まで貫いた最終回

2021年12月28日 / 12:24

 「私が言いたいことは、ちっとも難しいことではありません。手を取り合いましょう。困っている人がいれば、助け合いましょう。人は人を思いやる心を、誰かが苦しめば胸が痛み、誰かが救われれば温かくなる心を、当たり前に持っている。助け合うんだい。仲よくすんべえ。そうでねえと、父っさまや母っさまに叱られる。皆で、手を取り合いましょう。皆がうれしいのが、一番なんだで。どうか、切に、切にお願いを申し上げます」

渋沢栄一役の吉沢亮

 12月26日にNHKで放送された大河ドラマ「青天を衝け」最終回「青春はつづく」で、主人公・渋沢栄一(吉沢亮)がラジオを通じて日本国民に語った言葉の一節だ。関東大震災が発生した際、義援金を贈ってくれた中国で水害が発生。かつての恩に報いるため、91歳で「中華民国水災同情会」の会長に就任した栄一は、こうして救援のための募金を呼び掛ける。

 これが劇中、栄一の最後のスピーチとなった。その言葉は人々の心を動かし、多額の募金が寄せられる。ところがその直後、日本の関東軍が満州事変を引き起こしたことで、中国側が救援物資の受け取りを拒否。結局、栄一の思いは届かずに終わる。

 他にもこの回の栄一は、最終回とは思えないほど苦難続きだった。関東大震災では、80歳を過ぎてそれまで築き上げてきたものの多くを失った。長く心を痛め、解決に尽力してきたアメリカの日本人移民排斥問題に関しては、栄一の願いもむなしく「排日移民法」が成立した。

 前回のコラムで筆者は「栄一と慶喜の最後の対面が私たちの胸を打つのは、そんなふうに『生き抜く』ことでたどり着ける未来の希望を見せてくれたからではないだろうか」と書いた。

 ある意味、栄一と徳川慶喜(草なぎ剛)の関係は理想的な人生の在り方だった。しかし、私たちの現実を振り返ってみると、そんなふうに物事がうまく運ぶことばかりでなく、栄一と慶喜の関係を物語の締めくくりにすると、「ただの理想」「きれいごと」と一蹴されてしまう可能性もある。

 理想は分かった。では、必ずしもうまくいかない現実の中で、私たちはどうすればいいのか。苦難続きの晩年を生き抜く栄一の姿を通じて、その問いに一つの答えを示して見せたのが、この最終回だったのではないだろうか。

 その結果、関東大震災が発生すると、栄一は「しばらくは血洗島に戻っていた方が」と勧める息子たちを「私のような老人は、こんなときにわずかなりとも働いてこそ、生きる申し訳が立つんだ。それを田舎に逃げよとは、なんと卑怯千万な!」と一喝し、被災者の救援活動にまい進する。

 また、排日移民法に関しては、本編では「祖父の十年来の努力は無駄になった」という栄一の孫・敬三(笠松将)の語りで締めくくられていたが、小説版「青天を衝け」第4巻(NHK出版)にはその後のことが書かれている。

 そこで栄一は、意気消沈する関係者の前で、「まだやれることはきっとある。真心は最後にはきっと伝わるはずだ」と語っているのだ。

 小説版は台本を基に書かれているので、このシーンは放送時間や演出の都合など、何らかの理由でカットされたと思われる。これを基にドラマ本編を論じるのは反則かもしれないが、作り手の本来の意図を知るためということで、ご理解いただきたい。

 こうして、栄一は決してあきらめることなく、「みんながうれしいのが一番」という信条を最後まで貫き通した。その91年の生涯について、敬三は追悼式で「全力を尽くしても、その成果は『棒ほど願って針ほどかなう』ことばかりで」と振り返っていた。

 このことわざの意味を調べてみると「願いがなかなかかなえられないこと」とあるが、本作における栄一の生きざまに当てはめるなら、「多くを願えば、少しはかなうこともある」と解釈する方がふさわしい気がする。

 
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