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「上に立つ者だけがもうけるなら、御用金を取り立てりゃあ、早え話です。しかし、それじゃあどん詰まりだ。誰かが苦しみ、不平を持てば、そこで流れがよどんじまう」
6月20日に放送されたNHKの大河ドラマ「青天を衝け」第十九回「勘定組頭 渋沢篤太夫」での主人公・渋沢栄一(篤太夫/吉沢亮)のせりふだ。
一橋家の財政安定を目的に、米や火薬など一橋領内の特産物の売り方を工夫し、成果を上げ始めた栄一は、さらに木綿の取引を容易にするため、領内で通用する紙幣“銀札”の発行を思いつく。それを主君・徳川慶喜(草なぎ剛)に進言する前に、上司の猪飼勝三郎(遠山俊也)に語ったのがこの言葉だ。
なお、劇中ではここで終わっているが、台本を基に執筆された小説版『青天を衝け』(NHK出版)第2巻では、さらに以下の言葉が続いている。
「一方、みんながもうければ、みんなが生き生き務めに励み、流れはどんどんどんどん大きくなる。みんながうれしいのが一番です。上に立つわれらがこの大きな流れを作り、家だけでなく民を、皆を潤すのです!」
また、この言葉の前に栄一が語った「子いはく、富(ふう)と貴きとは、これ人の欲する所なり。その道をもってこれを得ざれば処(お)らざるなり」とは、渋沢栄一の著書「論語と算盤」の中にある孔子の「論語」の言葉だ。
その意味は、劇中でも簡単に説明されているが、「富と貴い身分は誰でも欲しがるもの。ただし、それらは正しい方法で手に入れたものでなければ安定することはない」といったところだろうか。
以上を踏まえると、栄一の思いがくっきりと浮かび上がってくる。「一橋家の財政を安定させたい」と慶喜に告げて商いを始めた栄一だが、「一橋家だけがもうかる仕組みでは長続きせず、意味がない」という思いがその裏にあったことが、これらの言葉で明らかになった。
これまで栄一は「みんながうれしいのが一番」と言いながらも、一介の農民の身分ではどうすることもできなかった。だが、一橋家で出世した今は、より多くの相手に対してその思いを実現する力を手に入れたことになる。