【大河ドラマコラム】「麒麟がくる」 第三十八回「丹波攻略命令」「わしは、どこまでも十兵衛ぞ」と変わらぬ光秀と、キリスト教との出会いを経て変わる信長

2020年12月28日 / 17:20

 NHKで好評放送中の大河ドラマ「麒麟がくる」。室町幕府の終焉(しゅうえん)を巡る緊迫した展開が決着した前回を経て、12月27日放送の第三十八回「丹波攻略命令」は、冒頭で三淵藤英(谷原章介)の切腹こそあったものの、その後は、明智光秀(長谷川博己)と家族とのほほ笑ましい一幕が繰り広げられるなど、久しぶりに心穏やかに楽しむことができた。それと同時に、光秀に仕える武将・斎藤利三(須賀貴匡)、正親町天皇(坂東玉三郎)の嫡男・誠仁親王(加藤清史郎)、成長した光秀の娘たま(芦田愛菜)など、新たな人物も登場。残り6回となった物語のクライマックスに向け、着々と布石が打たれる、見どころの多い回だった。

明智光秀役の長谷川博己(左)と織田信長役の染谷将太

 その中で印象的だったのが、菊丸(岡村隆史)と久しぶりに再会した光秀が「わしは、どこまでも十兵衛ぞ」と、“自分は昔と変わらない”とアピールした一言だ。

 それを裏付けたのが、「もうよい、帰れ!」「帰ります!」「ぐずぐずするな、呼び戻せ!」と、かつて光秀が斎藤道三(本木雅弘)と繰り広げたのと同様のやり取りを、織田信長(染谷将太)との間で繰り返した場面だ。相手が主君であっても、自分が正しいと思うことは遠慮なく言う。そんな真っすぐな光秀の性格が、若い頃も今も変わらないことを、改めて思い出させてくれた。

 さらに言えば、菊丸の案内で丹波を訪れた場面も、かつて農民の格好をして2人で旅をしたことを連想させ、ほほ笑ましい気持ちが湧いてきた。(ただその点では、関所を通るときに兄弟を装ったかつてのようなユーモアあるやり取りも見たかった、という欲張りな思いも少々あるが…)。

 光秀が昔と変わらないことを伝える一方、ポルトガルから来たキリスト教宣教師と対面した信長は、より広い視点で世界に目を向け、変わっていく様子が描かれた。

 変わらない光秀と変わっていく信長。この回の2人の対面は、そんな2人の違いを象徴するかのようだった。その点では、信長が宣教師からもらったマントを光秀に与える一幕も見られたが、この2人の違いを踏まえると、どこかで光秀がこれを返上する場面が出てきそうな気もする。

 室町幕府を描く物語のエピローグと、本能寺の変に向かうクライマックスへのプロローグ。物語が新たな段階へとシフトしていく“橋渡しの回”という観点で捉えると、信長と光秀の対面が、時間的にちょうど真ん中で描かれたことも演出の妙。ここで信長から指示を受けた光秀は、丹波攻略に着手する。史実ではこの丹波攻略には数年が費やされており、その間に光秀の周囲ではさまざまな出来事が起こっている。それが今後、どのように描かれていくのか。

 第三十八回は年末にふさわしい穏やかな展開だったが、次回予告を見ると、年明け早々、再び波乱が巻き起こる予感が。例年であれば、この時期は大河の放送は終わっており、総集編の放送を待つばかり…というところだが、年をまたいで楽しみをつなぐことができる今回は、ちょっと得した気分にもなったりする。次回放送は1月3日ということで、三が日の締めからクライマックスに向けて再加速していく新たな展開を、楽しみに待ちたい。(井上健一)


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