エンターテインメント・ウェブマガジン
NHKで好評放送中の大河ドラマ「麒麟がくる」。12月6日放送の第三十五回「義昭、まよいの中で」は、織田信長(染谷将太)と幕府との溝が深まる中、反信長派の幕臣・摂津晴門(片岡鶴太郎)による明智光秀(長谷川博己)暗殺計画が進行。辛うじてこれを切り抜けた光秀が、将軍・足利義昭(滝藤賢一)に改革の断行を直訴し、摂津らが処分される結果となった。朝倉・浅井連合軍との合戦や比叡山焼き討ちなど、このところ信長の下での活躍が続いた光秀が、義昭への忠誠を示し、幕府を重んじていることを改めて印象付けた回だった。
本作は、今さら言うまでもなく、本能寺の変を起こした武将・明智光秀の生涯を描く物語である。光秀の人生には謎に包まれた部分が多く、これまでそのイメージは、一般的には「信長の家臣の武将」という程度だった。だが本作では、さまざまな姿を描くことで、戦国武将という側面に留まらない光秀の人間的魅力を引き出している。その一つが、義昭や幕府との関係だ。
信長の下で戦に加わる一方、幕臣として摂津晴門の陰謀に立ち向かい、敵対する松永久秀(吉田鋼太郎)と筒井順慶(駿河太郎)の和平工作にも尽力。それを見ていると、戦いを生業とする武将というよりも、「有能な官僚」といった印象を強く受ける。
武将でありながら、有能な官僚でもある光秀。その両面が一体となったのが、今回のクライマックスとなる義昭への直訴だった。茶会に招かれた寺で、摂津が送り込んだ暗殺者たちの襲撃を受けた光秀は、刀を抜いて単身これに立ち向かう。そして、そのまま義昭の部屋へ駆け込み、「摂津殿や幕府内の古き者たちを捨て去るいい区切り」と訴える。
これに一度は「信長が勝手気ままに京を治めるのを黙って見ておれというのか」と反論した義昭だが、「私がそうならぬよう、務めます。信長さまが道を外れるようなら、坂本城は直ちにお返しいたし、この二条城で公方様をお守りいたす所存」という光秀の再度の訴えに心を動かし、その場で摂津の追放を決断する。
ここで見せた暗殺者に正面から立ち向かう勇敢さと、義昭に仕える幕臣としての実直さ。この物語の主人公・明智光秀とは、まさにその二つを併せ持つ人物だったと大いに納得し、胸打たれる名場面だった。
そこには、一朝一夕に作り上げたものではなく、義昭の兄・足利義輝(向井理)との関係も含め、長い時間をかけて光秀という主人公を育ててきた大河ドラマならではの深い味わいと説得力があった。
そしてそれは、光秀役・長谷川博己の存在抜きには語れない。開始当初の「長谷川が光秀を好演」という印象は、今では「長谷川こそが光秀そのもの」というふうに変わってきた。そのシンクロ度合の高まりが、光秀のキャラクターをより輝かせている。