【大河ドラマコラム】「麒麟がくる」 第三十三回「比叡山に棲(す)む魔物」光秀を比叡山焼き討ちに導いた運命の歯車

2020年11月23日 / 18:45

 NHKで好評放送中の大河ドラマ「麒麟がくる」。11月22日放送の第三十三回「比叡山に棲(す)む魔物」では、朝倉義景(ユースケ・サンタマリア)と比叡山の天台座主・覚恕(春風亭小朝)の同盟に苦杯を喫した織田信長(染谷将太)が、家臣たちに比叡山襲撃を命令。世に言う「比叡山焼き討ち」が行われ、明智光秀(長谷川博己)もこれに加わった。

明智光秀役の長谷川博己

 苦渋の表情で「女、子どもは逃がせ」と配下の兵たちに命じた後、光秀が次々と僧兵たちを切り倒す壮絶なラストシーンは、強烈な余韻を残した。

 光秀がこの焼き討ちに加わった裏には、覚恕と内通する反信長派の幕臣・摂津晴門(片岡鶴太郎)の存在がある。引き金となったのは、将軍・足利義昭(滝藤賢一)と筒井順慶(駿河太郎)の祝いの席に、順慶の天敵で信長派の松永久秀(吉田鋼太郎)が招かれたこと。これに激怒した松永は、「わしは幕府を離れるぞ」と光秀に告げる。

 それが摂津のたくらみであることに気付いた光秀は、覚恕との関係を指して摂津に「古く、悪しきものがそのまま残っておるのだ。それを倒さねば、新しき都は作れぬ。よって、戦は続けなければならぬ」と鬼のような形相で宣言。その怒りが、光秀を焼き討ちに導いたという見方は、物語の展開上、あながち間違ってはいないだろう。

 だが、考えてみれば、最初に順慶が義昭と出会うきっかけを作ったのは光秀自身だ。前回、光秀から「鉄砲を譲ってほしい」と交渉された順慶が、その場に居合わせた駒(門脇麦)に、「自分を義昭に引き合わせてほしい」という条件を出していたからだ。同じように順慶は、光秀にも「信長に引き合わせてほしい」と条件を出している。これが後々、物語にどんな影響を及ぼすのか、気になるところだ。

 さらに、さかのぼれば、光秀がその鉄砲を調達することになったのは、朝倉・浅井連合軍に敗れた織田軍の戦力を補うためだが、もともと、朝倉との戦を迷っていた信長に「帝に認めてもらえれば、戦の大義名分は立つ」と助言し、その背中を押したのも光秀だった。

 すなわち、比叡山焼き討ちに加わったのは、光秀自身の行動の結果であり、自らが招いた運命ということになる。そして、光秀と順慶の交渉の場で「私からもお願いします」と、光秀のために順慶に頭を下げた駒も、巡り巡って光秀が焼き討ちに加わる一因を作ったことになる。

 また、駒の行動は、この焼き討ちに関して別の悲劇も引き起こしている。貧しい少年・平吉(込江大牙)は「比叡山に売られた妹を取り戻す資金を得るため、薬を売ってほしい」と駒に頼み込み、それを比叡山に売りに行く。ところが、そこで焼き討ちに巻き込まれ、命を落とす。「貧しい人々を救いたい」との思いで製薬を手掛けてきた駒にとっては、皮肉な結果というしかない。

 さらに、無料で配っていた薬を平吉が売って生活費に充てていた(第二十五回)ことが、駒が製薬を商売にするきっかけになったことを思い返すと、その皮肉の度合いは一層深まる。

 光秀にしろ、駒にしろ、よかれと思ってしたことが、最終的に自らの思いとは逆の結果を招いてしまう。そんな時代のうねりに翻弄(ほんろう)される人の運命のはかなさが、実に巧みに描かれている。その運命の歯車は、光秀をどこへ導いていくのか。息詰まる物語から、目が離せない。(井上健一)

 


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