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豊臣秀次(新納慎也)が悲痛な最期を迎え、豊臣家の行く末に暗雲立ち込める「真田丸」。このところ、登場人物の死が続き、重苦しいムードも漂う。とはいえ、毎回後味が悪くならないのが、このドラマのうまいところだ。
その秘密の一端は、絶妙に配置された登場人物たちにある。現在放送中の大坂編で特徴的なのが、豊臣家の家臣たち。世界中で幾度となく模倣されてきた『七人の侍』(54)をはじめ、名作と呼ばれる作品には、登場人物の個性が明確なものが多い。
「真田丸」における豊臣家臣団にも、それが当てはまる。政務を取り仕切る石田三成(山本耕史)と大谷吉継(片岡愛之助)。一方、武勇に優れた加藤清正(新井浩文)と福島正則(深水元基)が時折にぎやかな見せ場を作る。そして、重苦しくなりがちな物語に程よいユーモアを加えているのが、片桐且元と平野長泰だ。
且元を演じるのは、「真田丸」の脚本家・三谷幸喜らが結成した劇団「東京サンシャインボーイズ」出身で、「新選組!」(04)、『ステキな金縛り』(10)などで活躍してきた小林隆。温厚なたたずまいとちょっと困ったような表情が印象的な俳優だ。
長泰を演じる近藤芳正は、『ラヂオの時間』(97)で鈴木京香演じる主婦脚本家の夫役、「軍師官兵衛」(14)では織田信長配下の猛将・柴田勝家、最近は「毒島ゆり子のせきらら日記」(16)で新聞社のデスクを演じるなど、どんな役にもなり切る演技力の持ち主。どちらも数々の三谷作品に出演してきた常連俳優でもある。
三谷いわく「地方公務員風の実直な仕事ぶり」で、日々気苦労の絶えない且元。それとは対照的に長泰は、面倒事は部下に押し付けて要領よく立ち回ろうとするお調子者。優秀な人材がそろう豊臣家の家臣の中で、人間味あふれるこの二人の存在は、まるで戦国武将たちがサラリーマンのようにも見え、ドラマをグッと身近に引き寄せる効果もある。
彼らの個性が発揮された典型的なエピソードが、第26回「瓜売」だ。豊臣秀吉(小日向文世)の発案で開催された大名たちの仮装大会に、且元は猿回しに扮(ふん)して参加。自分の芸を披露した後、秀吉と真田昌幸(草刈正雄)の出し物がダブっていることを知り、頭を抱えてしまう。
一方、その仮装大会で司会を担当したのが長泰。初めはやる気ゼロだったが、秀吉が登場した途端、満面に笑みを浮かべて盛り上げようと態度を一変させる。
実はこの回は、関白になった秀次の悲劇の始まりという側面もあったのだが、この二人を交えたユーモアあふれるやり取りが、その重さを和らげていた。
やろうと思えば、もっと深刻に演じることもできる且元と長泰が、これだけ生き生きとユーモラスな人物になったのは、三谷作品を知り尽くした二人の俳優がいればこそ。その軽妙さが、深刻になり過ぎない物語の雰囲気作りに大きく貢献している。
秀吉に死の影が忍び寄り、次第に豊臣家が傾いていく中、やがて且元と長泰にも大きな転機が訪れる。一見、地味ながら、「真田丸」に欠かせない二人の存在感は、これからますます高まりそうだ。
(ライター:井上健一):映画を中心に、雑誌やムック、WEBなどでインタビュー、解説記事などを執筆。共著『現代映画用語事典』(キネマ旬報社)