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ブロードウェー・ミュージカル「ラ・カージュ・オ・フォール」が日本で初演されてから今年で30周年を迎える。同ミュージカルは南仏のゲイ夫婦が育て上げた息子が結婚するに当たって巻き起こるドタバタを描いたコメディーだが、本場さながらの踊り子たちのレビューショーや偏見に屈しない「女」たちの悲哀など、登場人物全員の必死に生きる懸命さが胸を打つ。
2008年からコンビを組むのは劇団四季時代からの盟友、鹿賀丈史と市村正親。鹿賀がゲイクラブの経営者ジョルジュを、市村が看板スターのザザことアルバンを演じているが、長年連れ添ったような夫婦の息遣いが観客の心にしみわたる。
ラ・カージュ・オ・フォール」は1973年に戯曲として生み出され、78年に映画化、83年にミュージカル化され、96年には米国でリメーク映画が公開された。ミュージカルは84年にトニー賞の6部門で受賞し、2005年、10年の再演もトニー賞のリバイバル作品部門で受賞している。
日本では岡田眞澄と近藤正臣のコンビで85年に初演された。
今回は市村をはじめとする男優が扮(ふん)する踊り子たちが「女」としてのプライドを懸けて自分を表現する。また実際のナイトクラブにいるような演出も、臨場感を醸し出し観客にとっては極上のエンターテインメントとなっている。
徹底したコメディーでありながら、全編にわたって人情の機微に触れるような切々とした雰囲気が漂うのは、本当の母親の代わりに自分こそが息子を育ててきたという自負と母性を傷つけられたアルバンの思いが色濃く描かれているからだろう。そしてショーや数々のシーンで歌われるシャンソンの要素を盛り込んだメロディーと、はかなさをそっと慈しむような歌詞やせりふ。なおかつ踊り子たちが、異端視される自分たちの存在ににじませる寂しさも見逃せない。
底抜けに明るいミュージカルも開放感があっていいものだが、このミュージカルが日本人に長く愛されてきたのはそんな情感たっぷりの味付けにあるような気がする。
ミュージカル「ラ・カージュ・オ・フォール」は、28日まで東京都内の日生劇場で、3月6~8日に大阪市内の梅田芸術劇場で上演。(エンタメ批評家・阪清和)
【阪 清和(さか・きよかず)】元共同通信社文化部記者。2014年から、音楽・映画・演劇・ドラマ・漫画・現代アートなどの批評、インタビュー、コラムを執筆。