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「X JAPAN」のギタリストでソロとしても活躍していたhideが突然亡くなって16年半あまり。制作中だったアルバム『Ja,Zoo』はその後仲間たちによって完成したが、ラフに歌った仮音源しか残されていなかったため唯一収録されなかった曲「子 ギャル」が、最新の歌声合成技術によってよみがえったhideのボーカルで復活。昨年末、最後まで残された未発表の新曲としてhide生誕50周年記念アルバム『子 ギャル』に収録され、大きな話題を呼んでいる。
その時、私はhideのひつぎが乗せられた車のすぐそばに立っていた。彼が亡くなった1998年5月2日の5日後の5月7日。築地本願寺での告別式を最前線で取材していた音楽担当の新聞記者の1人だった。出かんの時こそ車を全速力で追いかける混乱したファンもいたが、数万人にも膨れ上がった群衆のほとんどは築地本願寺をぐるりと取り囲み、静かに瞑想(めいそう)するように献花の列に加わっていた。その思いを絞り出すように明かしてくれたファンの女の子は「悲しいけど、つながっているから…」と言った。ひとりひとりがhideとのそれぞれの交信手段を持ち、対話を続けている。そんな情景はあちこちにあった。絆は決して消えていなかった。
昨年12月はhideの生誕50年。その絆に応えるべく、ヤマハの歌声合成技術「ボーカロイド」を使って、生前のボーカルトラックや会話などから声の素材を取り出し、組み立て直した。不足している部分の素材は新技術を使って「推測」。hideと一緒に音楽を創っていた共同プロデューサーのI.N.A.が音楽的な調整をして完成させた。似せる作業も難航したようだが、単に似ているだけでは意味がない。そこにhideの持つ人間としての、ミュージシャンとしての魂のようなものが存在していないといけない。想像を絶する作業の果てに、「新曲」は生まれたのだ。
生前から熱烈なファンだった人には複雑な思いもあるだろうが、いまや伝説となったhideを若者たちにもリアルタイムで感じてもらうことは世代間の音楽ギャプを埋めて、hideがいかに最先端の音楽を世に問うていたかを知らしめる好機。亡くなった人の声を再現し、人工知能によって「会話」するという時代がもうそんなに遠くない未来に実現する可能性もある今、たくさんの人がさまざまな感慨を持ってこの歌を聴くはずだ。hideが「未来」を見ていたことが伝わってくるだけに、ファンならずとも胸に迫るものがある。(エンタメ批評家・阪清和)
【阪 清和(さか・きよかず)】元共同通信社文化部記者。2014年から、音楽・映画・演劇・ドラマ・漫画・現代アートなどの批評、インタビュー、コラムを執筆。