「3人の男性の夢、そしてその夢に対する執念をそのまま感じてほしい」『ボストン1947』カン・ジェギュ監督【インタビュー】

2024年8月29日 / 18:30

 1936年、ベルリンオリンピックのマラソンで日本は金メダルと銅メダルを獲得した。だがその選手は、日本名の孫基禎と南昇竜として参加した朝鮮出身のソン・ギジョンとナム・スンニョンだった。第2次世界大戦の終結後、すさんだ生活を送るギジョン(ハ・ジョンウ)のもとにスンニョン(ペ・ソンウ)が現れる。2人は期待の若手選手ソ・ユンボク(イム・シワン)を1947年のボストンマラソンに出場させるためチームを組むが…。『シュリ』(99)『ブラザーフッド』(04)のカン・ジェギュ監督が、祖国への思いを胸に走るマラソン選手の姿を実話に基づいて描いた『ボストン1947』が8月30日から全国公開される。公開を前に来日したジェギュ監督に話を聞いた。

カン・ジェギュ監督 (C)エンタメOVO

-なぜ今このクラシックな題材を描こうと思ったのですか。

 私は、以前からマラソンの映画を撮りたいと思っていました。では具体的にどんな映画を作ろうかと考えていた時に、知り合いのプロデューサーが持ってきたシノプシスを読んで、この映画を作ろうと決心しました。本作の時代背景である1947年は、今と比べると本当に大変でつらいことが多い時代でした。その一方、現代に生きる若者たちは、韓国のみならず、恐らく日本でもそうだと思いますが、現実の中でどうしたらいいのかと迷っていたり、はっきりとしない未来に対してばく然とした不安を抱いている人たちも多いと思います。そんな人たちが、この映画を見てくれたら、ある種の時間旅行ができて、今の自分たちが暮らす時代よりも、ずっと大変な時代であっても、主人公が夢をかなえた姿を目の当たりにすれば、少しは気持ちの慰めになったり、力になるのではないかと考えました。

-ハ・ジョンウ、イム・シワンについてはどう感じましたか。

 いろいろと調べてみると、ソ・ユンボクの身体的な条件にイム・シワンがとても近いものがあって、ほかにも一致する点が多々あり、これは役にピッタリだと感じました。撮影中は、モニターを通して彼の演技を見たわけですが、本当に鳥肌が立つことが何度もありました。私がこう演じてほしいと望んでいた演技を、彼は適切に、そして確実に見せてくれました。また、本作では、ハ・ジョンウを最初にキャスティングしました。というのも、この作品はソン・ギジョンという人からスタートしていますし、作品の中で大きな柱となる俳優が必要だと考えたからです。彼がソン・ギジョンを演じてくれたからこそ、この作品がしっかりと地に根を下ろして、どっしりと構えたものになったと思います。

-フィクションとノンフィクションとの割合はどんな感じなのでしょうか。

 まず、1947年という時代をできるだけそのまま映画の中に持ってきたいと考えました。それは当時を感じられる画面作りをするということですから、美術的な面でもかなり苦労したし、気も使いました。韓国は1945年の第2次世界大戦の終了とともに一応解放されたけれども、1950年には朝鮮戦争が始まります。1947年という時代は、そのはざまだったせいか、なぜか今まであまり作品として描かれてきませんでした。それは、その当時のことを知ることができる参考資料があまり多くないということも影響していると思います。いずれにせよ、本作においては、限られた資料の中でできるだけ忠実に描きたいと思いました。

 この作品は、事実に基づいてはいますが、作品の性格上、当然創作した部分もあります。ただ、創作して入れ込む部分はできる限り少なくしたいと思いました。主な登場人物である3人の男性の性格や人柄に、はっきりとコントラストをつける、でもちょっとエッジが効くような変化をつけるために、事実とは少し異なる部分を入れたりしています。ボストンマラソンのレースの部分は、できるだけ事実に基づいて、そのまま描こうと努めました。レースの場面などは、小説でも書けないような劇的な内容が実際にあったということです。

 
  • 1
  • 2

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

蓮佛美沙子&溝端淳平「カップルや夫婦が“愛の形”を見直すきっかけになれたら」 グアムで撮影した新ドラマ「私があなたといる理由」【インタビュー】

ドラマ2025年7月1日

 ドラマ「私があなたといる理由~グアムを訪れた3組の男女の1週間~」が、7月1日からテレ東系で放送がスタートする。本作は、グアムを訪れた世代が違う男女3組のとある1週間を描いた物語。30代の夫婦(蓮佛美沙子、溝端淳平)、20代の大学生カップ … 続きを読む

風間俊介「横浜流星くんと談笑する機会が増えてきたことがうれしい」蔦重と和解した鶴屋喜右衛門役への思い【大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」インタビュー】

ドラマ2025年6月29日

 NHKで好評放送中の大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」。“江戸のメディア王”と呼ばれた“蔦重”こと蔦屋重三郎(横浜流星)の波乱万丈の生涯を描く物語は、快調に進行中。6月29日放送の第25回「灰の雨降る日本橋」では、浅間山の噴火によっ … 続きを読む

栗田貫一「今回はルパンたちが謎の世界に迷い込んで謎の敵と戦って、しかも前に倒した連中もよみがえってくるみたいな感じです」『LUPIN THE IIIRD THE MOVIE 不死身の血族』【インタビュー】

映画2025年6月27日

 あのルパン三世が、約30年ぶりに2Dの劇場アニメーションとして帰ってくる。舞台は地図に載っていない謎の島。お宝を狙って乗り込んだルパン一行を待ち受けていたのは正体不明の存在だった。前代未聞のスケールで描かれ、全ての「ルパン三世」につながる … 続きを読む

光石研、大倉孝二「ちょっと重いけれどちゃんとエンターテインメントになっていると思います」『でっちあげ ~殺人教師と呼ばれた男』【インタビュー】

映画2025年6月27日

 日本で初めて教師による児童へのいじめが認定された体罰事件を題材にした福田ますみのルポルタージュを三池崇史が映画化した『でっちあげ ~殺人教師と呼ばれた男』が6月27日から全国公開された 。本作の主人公・薮下誠一(綾野剛)が勤める小学校の校 … 続きを読む

【週末映画コラム】『トップガン マーヴェリック』と兄弟のような『F1(R)/エフワン』/過酷な救急医療現場にリアルに迫った『アスファルト・シティ』

映画2025年6月27日

『F1(R)/エフワン』(6月27日公開)  かつてF1ドライバーとして活躍したソニー・ヘイズ(ブラッド・ピット)は、今は身を持ち崩し、フリーのレーサーとしてさまざまなレースに出場していた。だが、最下位に沈むF1チーム「エイペックス」の代表 … 続きを読む

Willfriends

page top