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NHKで好評放送中の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」。5月15日に放送された第19回「果たせぬ凱旋」では、宿敵・平家を滅ぼした後、源頼朝(大泉洋)と義経(菅田将暉)の兄弟が溝を深めていく姿が描かれた。
“平家打倒”という兄・頼朝の悲願をかなえながらも、後白河法皇(西田敏行)の信頼を得たことで、鎌倉に戻れなくなった義経。そんな義経に対して、不信を募らせていく頼朝だったが、主人公・北条義時(小栗旬)らの知恵を借り、義経本人に何とか謝罪の機会を与えようとする。ところが、関係修復を願う2人の思いとは裏腹に、周囲の思惑や計略により、やがて決裂は決定的となる…。
第14回、義経が木曽義仲(青木崇高)と平家討伐に出陣する直前には「存分に腕を振るってまいれ」「兄上のために全身全霊を傾けて戦い抜きまする」と熱く言葉を交わし、固い絆で結ばれていた兄弟。その2人が溝を深めていく姿には、史実通りと分かってはいても、やるせない思いを抑えることはできなかった。
ところで、この2人が決裂していく過程で注目すべき点が、義経の出陣以降、直接顔を合わせる機会がなかったことだ。
一度でも直接会って話をすれば済むものを、そうしなかったばかりに事態が悪化していく例は、いつの世にもある話だ。ことに、SNSなどのツールにより、顔の見えない離れた相手とのコミュニケーションが普及した現代では、日常の中でそれがより際立って見える。頼朝と義経の決裂の過程が、筆者にはそんな現代の人間関係の問題を映し出す鏡のように見えた。
大河ドラマに限らないが、作者の意図かどうかを問わず、たとえ、過去の時代や架空の世界を描いた物語であっても、映像作品には作られたその時代に通じるメッセージ性が浮かび上がってくることがある。
“日本資本主義の父”と呼ばれた実業家・渋沢栄一の生涯を通して企業と社会、労働者の関係を見つめ直した前作「青天を衝け」はその好例だ。本作でも、そういったものがどこかに見えてくるのではないかと注視してきたが、この頼朝と義経の断絶がまさにそうだと感じた。