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『アネット』(4月1日公開)
『汚れた血』(88)や『ポンヌフの恋人』(91)などの鬼才レオス・カラックス監督が、ロン&ラッセル・メイル兄弟によるポップバンド「スパークス」がストーリー仕立てのスタジオアルバムとして構築していた物語を原案に、映画全編を歌で語り、全ての歌をライブで収録したロックミュージカル。
スタンダップコメディアンのヘンリー(アダム・ドライバー)と一流オペラ歌手のアン(マリオン・コティヤール)、その2人の間に生まれたアネットが繰り広げるダークな寓話(ぐうわ)を、カラックスならではの映像美で描き出す。ドライバーがプロデュースも兼任。昨年のカンヌ国際映画祭で監督賞を受賞した。
オープニングは、『ラ・ラ・ランド』(16)風の楽しいミュージカルを予感させるような曲調で始まり、一瞬「カラックスにしてはまともじゃないか」と思わせるが、次第に、今まで見たことがないようなダークでシュールなミュージカルに変転し、「やはりカラックスは一筋縄ではいかないか…」となる。
全編を歌で語るという意味では、すでに『シェルブールの雨傘』(64)が行っているので新味はないが、光に反応して歌う幼児のアニーを人形にしたり、セックスや出産まで歌で語るところを見ると、よくいえば独創的だが、やはり珍妙な、実験的なミュージカルという印象を持たされた。全体としては、ロックミュージカルというよりも、オペラや演劇のにおいが強いと感じた。
ただ、フェデリコ・フェリーニの映画を感じさせるようなエンドロールなど、魅力的なシーンもあり、見終わった後は、妙に後ろ髪を引かれる。ドライバーの面目躍如の怪演、アネットを演じた子役の演技も見ものだ。
ところで、ロックミュージカルと呼ばれた映画として、『ジーザス・クライスト・スーパースター』(73)『ロッキー・ホラー・ショー』(75)『ヘアー』(79)などがある。そのほとんどが舞台劇を映画化したもの。その点でも、ポップバンドのアルバムを原案にしたこの映画は異色である。