【インタビュー】映画『47歳 人生のステータス』マイク・ホワイト監督「この映画は、自分と他人を比較したり、他人をうらやむことの不条理さを描いています」

2021年6月7日 / 06:30

 47歳のブラッド(ベン・スティラー)が、大学進学を目指す息子とボストンへ向かう旅の中で、自らの人生を見つめ直していく。人生の後半戦を歩み始めた中年男性の悲哀と再生を温かいタッチで描いた、プランBエンターテインメント製作の『47歳 人生のステータス』が6月11日からオンライン上映される。配信を前に、本作の監督・脚本を担当したマイク・ホワイトに話を聞いた。

マイク・ホワイト監督

-本作は、「ミッドライフクライシス(中年の危機)」を繊細なタッチで描いていますが、監督自身の体験は反映されていますか。

 今回は、自分の体験を反映させた物語になっています。自分では、充足した生活を送っていると思っていますが、ネガティブな気持ちになるときもあります。そんなときは、自分と他の人とのことを比較して、その人の成功をうらやましく思ったり、自分には何かが足りないと思ってしまいます。そうした気持ちは、野心家を突き動かす原動力にはなりますが、僕の場合は、そういうことを感じたときは恥ずかしくなります。この映画の脚本を書いているとき、その恥ずかしさから逃げるのではなく、直面してみようと思いました。そこから何が出てくるのか見てみようと考えて書いた作品です。

-主人公のブラッドは、自分は負け犬だと思っていますが、仕事もあり、良き妻と出来のいい息子もいて、それほど悪い人生を送っているようには見えず、むしろぜいたくな悩みのようにも見えます。これは、いわゆる「隣の芝生は青くない」ということにブラッドが気付く、ということを描いているのでしょうか。

 おっしゃる通り、それが問題なわけです。多くの人から見れば、ブラッドの人生はうらやましく思えるかもしれません。この物語は、結局は、自分の外側にあるマトリックス(物差し)で成功を測ることが、心理的な痛みを招くということを描いています。「隣の芝生は青い」と思うかもしれませんが、本当に青いかどうかは分かりませんよね。もしかしたら、隣の人も自分の人生について不満を持っているかもしれません。つまり、この映画は、自分と他人を比較したり、他人の幸せや成功をうらやむことの不条理さを描いているのです。

-この映画には、ブラッドとトロイの父と子のバディ&ロードムービーという側面もありますが、同時に、現実の出来事にブラッドのモノローグと妄想を入れ込みながら、彼の心の旅も描いています。このユニークな手法をどうやって思い付いたのでしょうか、またその意図を教えてください。

 もともとこのテーマにはワクワクするものを感じていました。特にブラッドが抱く不安が、常に彼の頭の中を占めているわけではなくて、アップダウンを繰り返すところが面白いと思いました。だとしたら、物理的に彼を小さな旅に出してみたらもっと面白いだろうと思いました。息子と一緒に大学を探しに行く、けれどもそこでやることといったら、ホテルにチェックインをしたり、飛行機のチケットを手に入れたりする、極平凡なことです。ところが、彼にとってはそれが引き金となって、いろんな気持ちが浮かんできて、それがアップダウンする。それは僕自身にも共感できることでした。

 僕は今ハワイにいますが、嵐のときは家から出られません。そんなときは、頭の中で気持ちが激しくアップダウンします。じっとしていても、気持ちはアップダウンするわけです。ブラッドの場合もそれと同じ考え方です。それを表現するためにボイスオーバー(画面に現れない話者の声)を使いました。外側から見れば、たいしたことはしていなくても、内側から見れば、それこそ生死に関わるような強烈なドラマが起きているということを、ボイスオーバーを使うことによって表現しているわけです。

-長年の友人でもあるブラッド役のベン・スティラーとは、ミッドライフクライシスについて何か話し合いましたか。

 まず、最初に脚本を読んでくれたときに、ベンが「これは僕だ! 僕はブラッドだ」と言いました。僕は「君は大スターで、大金を稼いで、とても成功しているじゃないか」と返しましたが、そのときに、成功のバロメーターは人それぞれだけど、こういう気持ちに対する免疫はないのだと改めて感じました。

-ブラッドは、この後の人生の後半戦を、どのように過ごせば心が安らぐと思いますか。

 僕は、成功とは草の根キャンペーンだと思っています。スタートは自分から始まって、自分の一番近い人たちに広がっていき、そこからさらに大きくなっていく人もいます。大事なのは、自分のことをよく知っている人たちが、自分をどんなふうに見ているかだと思います。彼らの目に自分がどう映っているかが大切なのです。公的にとか、知らない人から成功していると思われることは、実はその人の本当の成功とはかけ離れた幻影なのかもしれません。だから、それを追い掛けてもすぐに消えてしまいます。そうしたことは、今のSNSなどでさらに加速していると思います。それが僕の哲学なので、今回の映画を通して、それが表現できていればいいと思います。

 
  • 1
  • 2

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

市川團十郎、市川新之助「こういう形で記録に残せたのは非常によかったと思います」【インタビュー】『襲名』

映画2026年9月24日

 十三代目市川團十郎白猿の襲名と八代目新之助の初舞台を正面から捉えた、三池崇史監督のドキュメンタリー映画『襲名』が、9月25日から全国公開される。映画の公開を前に、團十郎、新之助親子に話を聞いた。 -まず、映画を見て感じたことから伺います。 … 続きを読む

尾上松也「金田一耕助を演じる喜びがふつふつと」奥智哉「今の時代にふさわしい作品に」名作ミステリー映画で共演『八つ墓村』【インタビュー】

映画2026年9月18日

 横溝正史原作の名作ミステリーが、令和の時代によみがえる!これまで繰り返し映像化されてきた『八つ墓村』が装いも新たに映画化され、9月18日から全国公開となる。  岡山県の山奥にひっそりとたたずむ八つ墓村で起きる連続殺人の謎に、名探偵・金田一 … 続きを読む

有村架純、石田ひかり、姫野花春「見終わった後ですごく幸せな気持ちになれる映画です」『さとこはいつも』【インタビュー】

映画2026年9月18日

 沖田修一監督が、年齢も育った環境も異なる3人の「さとこ」という女性の人生が交差していく様子をオリジナルストーリーで描いた『さとこはいつも』が、9月18日から全国公開。本作で、35歳の沙都子を演じた有村架純、55歳の里子を演じた石田ひかり、 … 続きを読む

見上愛「樹里ちゃんは周りを安心させる空気感を持っている」上坂樹里「愛さんが私を直美にしてくれました」主演の2人が撮影を振り返る【連続テレビ小説「風、薫る」インタビュー】

ドラマ2026年9月17日

 NHKで好評放送中の連続テレビ小説「風、薫る」。田中ひかるの著書『明治のナイチンゲール 大関和物語』を原案に、明治時代、当時まだ知られていなかった看護の世界に飛び込んだ一ノ瀬りん(見上愛)と大家直美(上坂樹里)という2人のナースの冒険物語 … 続きを読む

丸山隆平「きっと誰も見たことがないものになる」 舞台「water」で挑む半自伝的作品【インタビュー】

舞台・ミュージカル2026年9月14日

 丸山隆平と、演劇団体マームとジプシーの主宰を務め、劇作家・演出家として注目される藤田貴大が企画し、作り上げる舞台「water」が9月27日から上演される。本作は、丸山の記憶の断片を散りばめながら、藤田の視点で見つけた京都という土地、そして … 続きを読む

page top