【インタビュー】『タロウのバカ』大森立嗣監督 驚異の新人YOSHI、菅田将暉、仲野太賀共演作で「『生きる』ということを見つめ直してみようと思った」

2019年9月5日 / 12:00

 ある川沿いの町。「タロウ」と呼ばれる名前のない少年(YOSHI)は、母親から放置され、学校にも行かず、高校生のエージ(菅田将暉)やスギオ(仲野太賀)と共に、当てのない日々を過ごしていた。そんなある日、偶然一丁の拳銃を手に入れたことから、彼らは過酷な現実と向き合うこととなる…。9月6日、テアトル新宿ほか全国ロードショーとなる『タロウのバカ』は、主演を務める新人YOSHIの圧倒的な存在感、痛烈な批評精神を持って現代社会を見つめた物語など、注目の一作だ。メガホンを取ったのは、『日日是好日』(18)、『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』(18)などの話題作を送り出す大森立嗣監督。製作の背景、作品に込めた思いを聞いた。

大森立嗣監督

-「名前がない、学校にも行かない」という主人公タロウのキャラクターが強烈です。どんなところから、この主人公が生まれたのでしょうか。

 この映画では、「生きる」ということを見つめ直してみようと思ったんです。今の日本はあまりにも経済を優先し過ぎて、豊かになったのはいいけれど、それで本当に幸せになったのかというフィードバックがなさすぎる。妄想に取りつかれているだけではないのかと。そこを考えるには、人間そのものを見つめる必要がある。そのためには、社会的なバックグラウンドを持たず、名前もない人間の視点がほしかった。ただ、大人になるとモラルやコンプライアンスなど、いろいろなものを背負ってしまい、だんだん人間そのものから離れていってしまう感覚が、僕にはありました。だから、主人公は少年の方がいいだろうと。

-演技初挑戦でタロウを演じたYOSHIさんの存在感が圧倒的だと感じました。監督ご自身がインスタグラムで発見したそうですが、起用の決め手は?

 オーディションのような形でいろいろな子に会ったのですが、みんな15、6歳になると、どこか社会化されていて礼儀正しい。でも、タロウはそういうものからかけ離れたところにいなければいけないだろうと。「今の日本に、そんな子がいるのか?」とも思いましたが、彼に会った瞬間、まさにこの子だと。社会化されていないということを、自分の中で肯定している感覚が、彼にはあったんです。そこがすごく魅力的で、即決でした。

-現場でのYOSHIさんは、どんな様子だったのでしょうか。

 普通の映画の現場で考えたら、彼の振る舞いはむちゃくちゃです(笑)。僕のことを「タッチャーン!」と呼んで膝の上に乗ってきたり、「撮影終わったら、ゲーセン行こうよ!」と言ったり…。撮影のときも、「やっべー、緊張する!」と言ったかと思えば、「俺、できたよ!」と言ってみたり…。ただのクソガキです(笑)。でも、そんな現場は長いこと経験していなかったので、スタッフもみんな喜んでいました。映画って、自由に表現をしているつもりだけど、実際はいろいろなしがらみを背負って撮影しなければならない。当時、事務所に所属していなかった彼は、そういうものとは全くかけ離れたところから来てくれたので、すごく新鮮でした。「野性的」と言ってもいいかもしれません。楽しかったです。

-現場でのYOSHIさんと菅田さん、太賀さんの関係は?

 先にYOSHIくんが2人のことを好きになってくれました。菅田くんと太賀くんは最初、「この子、誰?」みたいな感じでしたけど、すぐに仲良くなって。2人は大人なので、この現場のにおいも分かって、「この映画をよくするために、自分たちの役割を果たす」ということだったと思います。それでも、一緒に古着屋に行ったりして、心から楽しんでいる様子がありました。

-一方、タロウと関わる役で、ダウン症の方たちも出演していますね。

 人間そのものを撮りたいと思っていたので、タロウに近い存在として出てもらいました。今の社会で、彼らが大きな仕事をするのはなかなか難しいことですが、実はものすごく生命力にあふれている。社会的なものを背負っていないタロウと同じように、余分なものをそぎ落とした存在として、彼らをフィーチャーしてみました。

 
  • 1
  • 2

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

オダギリジョー「麻生さんの魅力を最大限引き出そうと」麻生久美子「監督のオダギリさんは『キャラ変?』と思うほど(笑)」『THE オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ MOVIE』【インタビュー】

映画2025年10月17日

 伝説の警察犬を父に持つオリバーとそのハンドラーを務める鑑識課警察犬係の青葉一平(池松壮亮)のコンビ。だが、なぜか一平だけにはオリバーがだらしない着ぐるみのおじさん(オダギリジョー)に見えており…。  この奇想天外な設定と豪華キャストが繰り … 続きを読む

【映画コラム】初恋の切なさを描いた『秒速5センチメートル』と『ストロベリームーン 余命半年の恋』

映画2025年10月17日

『秒速5センチメートル』(10月10日公開)  1991年、春。東京の小学校で出会った遠野貴樹(上田悠斗)と転校生の篠原明里(白山乃愛)は、互いの孤独を癒やすかのように心を通わせていくが、卒業と同時に明里は栃木に引っ越してしまう。  中学1 … 続きを読む

大谷亮平「お芝居の原点に触れた気がした」北斎の娘の生きざまを描く映画の現場で過ごした貴重な時間『おーい、応為』【インタビュー】

映画2025年10月16日

 世界的に有名な天才浮世絵師・葛飾北斎。その北斎と長年生活を共にし、自らも絵師“葛飾応為”として名をはせた娘・お栄の生きざまを描いた『おーい、応為』が10月17日から全国公開となる。劇中、北斎(永瀬正敏)の弟子の絵師“魚屋北渓”として知られ … 続きを読む

黒崎煌代 遠藤憲一「新しいエネルギーが花開く寸前の作品だと思います」『見はらし世代』【インタビュー】

映画2025年10月15日

 再開発が進む東京・渋谷を舞台に、母の死と残された父と息子の関係性を描いた『見はらし世代』が10月10日から全国公開された。団塚唯我のオリジナル脚本による長編デビュー作となる本作で、主人公の蓮を演じた黒崎煌代と父の初を演じた遠藤憲一に話を聞 … 続きを読む

草なぎ剛「今、僕が、皆さんにお薦めしたい、こういうドラマを見ていただきたいと思うドラマです」「終幕のロンド -もう二度と、会えないあなたに-」

ドラマ2025年10月14日

 草なぎ剛主演の月10・新ドラマ「終幕のロンド -もう二度と、会えないあなたに-」(カンテレ・フジテレビ系/毎週月曜午後10時/初回15分拡大)が13日から放送スタートとなった。本作は、妻を亡くし、幼い息子を男手一つで育てるシングルファーザ … 続きを読む

Willfriends

page top