【インタビュー】『ある町の高い煙突』渡辺大「異なる立場の人々の共生を描くことは、とてもすてきな試みだと思いました」

2019年6月17日 / 10:00

 明治時代末期から大正時代にかけて、茨城・日立鉱山の亜硫酸ガスによる煙害に対して、当時世界一となる大煙突を建設した人々の姿を描いた『ある町の高い煙突』が6月22日から公開される。本作で、鉱山の庶務係で地元住民との補償交渉にあたる加屋淳平役を演じた渡辺大に、加屋の人物像や、映画に対する思いを聞いた。

加屋淳平役を演じた渡辺大

-本作は実話を基に映画化したものですが、事前に原作や資料には目を通しましたか。

 (松村克弥)監督から新田次郎さんの原作本を頂きましたし、撮影に入る前に日立市にある日鉱記念館を見学させていただきました。最初に台本を読んだときにも感じましたが、足尾銅山など、こうした企業と地元住民の方々との関係を描く場合は、対立構造として、どうしても企業を敵として描くことが多いのですが、今回の日立鉱山の話は、異なる立場の人々の共生を描こうとしていたので、とてもすてきな試みだと思いました。それは、誰かが不幸になるわけではなく、みんなが幸せになるというものなので、心が和らぐ作品になると思いました。

-今回演じた加屋淳平は、企業側の代表で、最初は敵役かと思わせておいて、実は好漢というもうけ役でしたね。

 確かに加屋は、最初は善人なのか悪人なのか分からないところがありますが、そう見えるのは、僕も含めて、性善説を信じている人が少ないからなのかもしれませんね(笑)。なかなかあそこまでできる人はいませんから。それは、会社や自分の利益だけではなく、地元住民のことを優先する生き方を通すことがいかに難しいかということにもつながると思います。僕自身も、加屋のような生き方ができればいいと思いましたし、映画を見る方にもそう思ってもらえるような人物として演じられれば、と思いました。

-加屋は、実在の、そう遠くない時代を生きた人物(角弥太郎)がモデルでしたが、そういう役を演じることへのプレッシャーはありましたか。

 こういう近い時代の役は、その方の人となりを知っている方や親族の方もいらっしゃいますので、いつも以上に頑張らなければ、という気持ちになります。ただ、今回は本に書かれていた人物像が素晴らしく、しかもフィクションとノンフィクションの間を描いていたので、僕としては加屋が苦労した、人間らしい部分を少し足してみようと考え、そこが見る方に好かれる要素になればいいと思いました。

-加屋は、地元住民とのとの共存共栄を考える、という理想家肌の人物でしたが、演じながら感じたことは?

 人は、どうしても自分の人生のことだけを考えてしまいがちですが、自分が死んだ後の他人の幸せのことも考えられるのは素晴らしいことだと思いました。煙突を立てるときに「もし煙突を立ててくれたら、人はあなたのことを100年忘れません」というせりふがありました。本当は「多額の報酬があります」と言った方が人は動くのかもしれませんが(笑)。自分の利益ではなく他者の利益を優先するという生き方が、自分が死んだ後も人々の心に残り、100年たってこうして映画になるということを知り、いろいろなことを考えさせられました。ある意味、加屋は「こうありたい」と思う理想の人物でしたが、そこにちょっと人間くさい部分も入れて、全てをまとめて付き合っていきたいという気持ちもありました。

-猟銃を向けられてもひるまない、度胸のあるところを見せるシーンもありましたね。

 いくら偽物とはいえ、喉元に銃口を突き付けられたので怖かったです。ただ、あのシーンは、銃を降ろされた後で、疲れた加屋が「ふー、参った」となるところに、彼の苦労がしのばれて、人間ぽくていいなあと思いました。

-主人公の関根三郎を演じた井手麻渡さんの印象は?

 関根三郎くんそのままの純朴さがありました。映画初主演なのにとても落ち着いていて、演技で悩むようなときは、一緒に煙突を立てるような気分で(笑)、2人で協力し合いながら作り上げていきました。

 
  • 1
  • 2

関連ニュースRELATED NEWS

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

黒崎煌代 遠藤憲一「新しいエネルギーが花開く寸前の作品だと思います」『見はらし世代』【インタビュー】

映画2025年10月15日

 再開発が進む東京・渋谷を舞台に、母の死と残された父と息子の関係性を描いた『見はらし世代』が10月10日から全国公開された。団塚唯我のオリジナル脚本による長編デビュー作となる本作で、主人公の蓮を演じた黒崎煌代と父の初を演じた遠藤憲一に話を聞 … 続きを読む

草なぎ剛「今、僕が、皆さんにお薦めしたい、こういうドラマを見ていただきたいと思うドラマです」「終幕のロンド -もう二度と、会えないあなたに-」

ドラマ2025年10月14日

 草なぎ剛主演の月10・新ドラマ「終幕のロンド -もう二度と、会えないあなたに-」(カンテレ・フジテレビ系/毎週月曜午後10時/初回15分拡大)が13日から放送スタートとなった。本作は、妻を亡くし、幼い息子を男手一つで育てるシングルファーザ … 続きを読む

川島如恵留「僕にとって一番の幸福は、メンバーといられること」 初の単独主演舞台に挑む【インタビュー】

舞台・ミュージカル2025年10月13日

 Travis Japanの川島如恵留が主演する舞台「すべての幸運を手にした男」が11月14日から東京グローブ座で上演される。世界を代表する劇作家アーサー・ミラーの初期の名作として名高い本作は、主人公デイヴィッド・ビーヴスに思いもかけない幸 … 続きを読む

妻夫木聡、佐藤浩市「この物語は馬と人の継承を描いていると感じました」日曜劇場「ザ・ロイヤルファミリー」【インタビュー】

ドラマ2025年10月12日

 TBSでは、10月12日(日)午後9時から、妻夫木聡が主演する日曜劇場「ザ・ロイヤルファミリー」が放送スタートする。本作は、競馬の世界を舞台に、ひたすら夢を追い続けた熱き大人たちが、家族や仲間たちとの絆で奇跡を起こしていく、人間と競走馬の … 続きを読む

中村ゆり「草なぎ剛さんは包容力があって“人の痛み”が分かる方」 ドラマ「終幕のロンド」【インタビュー】

ドラマ2025年10月10日

 草なぎ剛が主演する月10ドラマ「終幕のロンド —もう二度と、会えないあなたに—」(カンテレ・フジテレビ系)が、13日から放送がスタートする。本作は草なぎが演じるシングルファーザーで遺品整理人の鳥飼樹が、遺品整理会社の仲間と共に仕事に向き合 … 続きを読む

Willfriends

page top