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乳母として、おとわと呼ばれた幼いころから直虎に仕えてきたたけが、高齢からくる衰えを理由に自ら井伊谷を去っていった。第24回、直虎(柴咲コウ)との別れのシーンに心打たれた視聴者も多いに違いない。そして代わりに登場したのが、たけの姪・梅である。この、たけと梅の二役を演じているのは、舞台からテレビドラマ、映画まで幅広く活躍し、今回が大河ドラマ初出演となるベテラン女優・梅沢昌代。たけの思い出からあっと驚く二役起用の裏側まで、温かな言葉で語ってくれた。
年を取ってきちんとお仕事ができなくなり、お家の経済状態も悪いところに、役に立たない自分がいては申し訳ないと思って、里に帰ることを決心したわけです。でもやっぱり後ろ髪を引かれながら、とぼとぼ歩いて行く。そこへ、姫さまが来てくれた。泣こうと思って泣けるものではありませんが、あそこは涙が出ました。ロケ先も木漏れ日があるいい場所で、柴咲さんもとってもいいお芝居をしてくださって…。いいシーンになったと思います。
小林薫さんから、「誰がやるのかと思ったら、おまえさんじゃないか。台本を読んだ時に泣いた涙を返してくれ」と言われました(笑)。でも、そういうところが森下(佳子/脚本家)さんの面白いところだと思って。次回ではなく、その回に出してしまう。「えっ!?」となるところが、私は好きです。財前(直見)さんは、完成した作品を見て「あんなにすぐ梅になった? 本当に涙が乾かないうちに出てきちゃうのね。でもよかったわ」と言って下さいました。
びっくりしましたよ! そんなのありなんですかって。どう見たって、同一人物ですから(笑)。番組開始当初の台本が出来上がったころは、やるかやらないか、はっきり決まっていなかったんです。冗談だと思っていたら、梅も演じることになって。たけ、梅ときたので、次は松でも出て来るんじゃないかと、スタッフは言っていますけどね(笑)。60歳を過ぎて初めて出演させていただいた大河ドラマで二役もやらせていただけて、本当に幸せです。
舞台では経験がありますが、テレビや映画では初めてです。森下さんからは「(梅は)キリッとした人で」と言われていたので、マスカラをつけたり、着物も紺色にしたり、外見からキリッとした感じにしています。メークの時間は、たけの倍かかっています。区別するためにほくろを付けたりするのも、悔しいからやっていませんけど、たけの最後の方はかなり老けた感じでやっていたので、「あれ?」と思ってもらえるのではないでしょうか。梅はたけよりしゃべる場面も少なくて、直虎との関係も変わってきます。姫さまとして接してきたたけとは違って、あくまでも殿という距離感ですから。
初めての大河ドラマだったので、新井美羽ちゃんが演じたおとわを追い掛けている最初のシーンですね。喜怒哀楽の激しいたけは、ずいぶん走ったり、叫んだりしていましたし。最初はそこでいなくなるのかと思っていたんですけど(笑)。柴咲さんとは、やっぱり別れのシーンです。台本を頂いた時、とてもいい場面だったので、ここは頑張らなくちゃ、という思いがありました。
楽しみたいと思っていたので、苦労はなかったです。小さい時の美羽ちゃんは本当に楽しそうで、彼女を追い掛けていればそのまま感情が出たので、あまり考えず、彼女がやったこと、言ったことに応えるという感じでした。頭をそる場面なんかも楽しそうで、お芝居をしているという顔を全然しないんです。だから、彼女からもらったものを返していたという方が大きいかもしれないです。
南渓さん(小林薫)から教わった「道は幾つもある」というものが、柴咲さんの中にもあるような気がします。普段から、音楽など色々なことをやっていらっしゃいますし。作品についてもすごく考えていて、「ここは良く分からない」という部分はそのままにせず、掘り下げてやってらっしゃいます。
そうですね。1年間、主人公を演じるのは、精神的にも肉体的にも大変なことですから、自分の中でも何かが構築されていくのではないでしょうか。私ですら、そうでしたから。たくさんの人が出入りする中で、残っている人はいろいろな人と出会えるわけですから、そこで積み上げられていくものがあると思います。私も最初は柴咲さんとの会話が少なかったんですけど、撮影が進むうちリハーサルや待ち時間での会話が増えて行き、お互いの距離が近づいていったように思います。
財前さんは、年はずっと下ですけど、姉御肌で面倒見がよくて気配りもある方です。まるで祐椿尼さんみたいで、戦で亡くなった方の家族にお手紙を一生懸命書いている姿なんてぴったり。現場でも「ここをこうしたら面白くなるんじゃない?」なんて言っている時もあります。
体いっぱいおとわを愛して、“おとわさま命”の人でした。大事で大事でしょうがないけど、小さい時は言うことを聞いてくれないし…。本当はお嫁に行くか、旦那さんを迎えるかして、子どもを生んでほしくて、そのお守りもしたかったのでしょう。他の人が、“殿”、“直虎さま”と呼ぶ中で、1人だけ“姫さま”と呼ぶのも、女性として幸せになってほしいという思いがあったのでしょうね。
たけです(笑)。喜怒哀楽が激しいところが似ています。梅は、まだ演じて日が浅いので、この先どうなるのか楽しみです。
(取材・文/井上健一)
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