【コラム】女優・黒木華、つぼみが開くように成長する  「天皇の料理番」に大きな注目

2015年4月1日 / 17:42

 つぼみがひとつひとつ開いて花を咲かせていくように、女優黒木華(くろき・はる)の成長は一見さりげないが、作品ごとに着実に大きな成果を挙げている。今年に入ってわずかな間に『繕い裁つ人』『幕が上がる』『ソロモンの偽証 前篇』と立て続けに出演映画3本が公開されたが、4月26日から始まるTBS系ドラマ「天皇の料理番」では、芯の強い日本の女性像が映える女優として大きな注目が集まりそうな勢いだ。

ドラマ「天皇の料理番」で熱演する黒木華

 「天皇の料理番」で演じる俊子は海産物問屋の娘で、なにをやっても長続きしない主人公篤蔵(佐藤健)が婿養子として結婚する相手。やがて料理に目覚めていく篤蔵を優しく見守り、夢を追いかけて東京まで行ってしまう夫を、辛抱強く支えている。夫の中に光るなにかキラッとしたものを信じているからこその忍耐。そこには、明治・大正の女が持つ器の大きさとともに、現代性さえ感じさせるしなやかな強さがある。

 山田洋次監督から、主人の奥様の秘密を守り通すお手伝いさん役に抜てきされた映画『小さいおうち』で黒木が第64回ベルリン国際映画祭最優秀女優賞(銀熊賞)を受賞する快挙を成し遂げたのは昨年2014年2月。その後もNHK連続テレビ小説「花子とアン」やWOWOWのドラマ「グーグーだって猫である」、舞台「赤鬼」など話題の作品でみずみずしい演技を見せ、快進撃を続けてきたのだ。

 黒木は高校で演劇部に入り、大学では映画学科の俳優コースに通ったが、見いだされたのは09年に大阪で開かれた劇作家・演出家の野田秀樹によるワークショップ。その後、野田の舞台のアンサンブルに参加し、続いて野田と中村勘三郎が共演した「表に出ろいっ!」に起用された。当時を知る野田は「ワークショップの時からせりふに間(ま)や幅があって、今後の演技の伸びしろが大きいんじゃないかと思っていた」という。

しかし「演技ができる」ことだけが彼女の才能ではない。独特な味わいが加わった魅力が彼女を特別なものにしている。黒木の演技の特徴は、決して同じような印象を残さないことにある。『繕い裁つ人』では主人公に静かに影響を与えていく女性を、『幕が上がる』では高校の演劇部の顧問として部員たちを鼓舞する教師を、『ソロモンの偽証 前篇』では男子生徒の転落死事件のもみ消しを疑われる気弱な担任教師を演じた。たとえ登場シーンが多くなくても、そのまなざしやしぐさ、存在感は多くのことを語り、見る人の心にいつまでも残り続ける。

辞書編集者を演じた映画『舟を編む』では、共演者から「真面目だけど毒を持っている」と指摘され本人もびっくり。映画『シャニダールの花』での危険な花に心をとらわれていくセラピストの役やドラマ「リーガルハイ2」でのとびきりポップな弁護士という役柄もものにしている彼女。本人も気付いていない魅力的なポテンシャルが今後も次々と顔を出しそうだ。

 『小さいおうち』で第38回日本アカデミー賞最優秀助演女優賞を受賞した黒木は「この作品は私をいろんな所に連れて行ってくれて、このまま(女優を)やっていていいんだなと思わせてくれた」とスピーチ。控えめな中に強い決意を秘めた黒木の次の大きな節目になるドラマ「天皇の料理番」での演技から目が離せない。

(エンタメ批評家・阪清和)

 【阪 清和(さか・きよかず)】元共同通信社文化部記者。2014年から、音楽・映画・演劇・ドラマ・漫画・現代アートなどの批評、インタビュー、コラムを執筆。


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