エンターテインメント・ウェブマガジン
漫画、アニメ、ゲームといった2次元作品を原作として3次元化した舞台作品「2.5次元ミュージカル」(以下、2.5D)は、今や日本発のカルチャーの一つとして、若者を中心に高い人気を誇っている。2018年のNHK紅白歌合戦には、「刀剣男士」としてミュージカル『刀剣乱舞』のキャラクターたちが出場。より広く認知されるようになった。その2.5Dが、19年はどのように歩みを重ね、そして20年はどのような展望があるのか。日本2.5次元ミュージカル協会代表理事を務め、演劇プロデューサーでもある松田誠氏に話を聞いた。
国内においては、少しずつ2.5Dが浸透しているという感覚はありますが、今年は、地道な1年だったように思います。もちろん、公演数や動員数は確実に増えています。それは、お客さまの層が広がっていることを意味すると思うので、停滞していないという点ではよかったと思います。ただ、ここからはある意味、さらに地道な活動になってくるとは感じています。
一方で、漫画『美少女戦士セーラームーン』を原作とした「“Pretty Guardian Sailor Moon”The Super Live」をワシントンD.C.とニューヨークで上演。これは、2.5Dとしては初のアメリカ公演でした。演劇という点においては、ブロードウェーは一つの目標でもあり、憧れでもあるので、大きな意味のある公演でした。お客さまの反応も良く、チケットも即完売し、ブロードウェーのような演劇のメッカでも2.5Dが通用するということを感じたので、海外においては大きな一歩が踏み出せたと思っています。
一つの要因だと思います。実際に、紅白をはじめとしたテレビ番組に出演したことで、大きな反響を頂きました。それは「刀剣男士」として注目していただいたというよりも、2.5Dというジャンルとして認識していただけたのだと思います。舞台は、劇場の中でやっていることなので、誰もが見られるものではありませんから、そういう意味ではなかなか広がりにくいんです。ですから、メディアや紅白のような番組で取り上げてもらうことは、認知を広げるという意味で大きな意味があると思います。
ただ、テレビで1度見たからといって、簡単にお客さまが劇場に足を運んでくれるというものではありませんので、日々の生活の中で目に入るいろいろな取り組みをしていかなければならないと思うようになりました。例えば、街を歩いていて2.5Dの交通広告を見るとか、雑誌で特集記事を見る。こういうことが重なって、やっと「見てみようか」と思ってもらえるものだと思います。認知が広がった今、次は実際に見てもらうことにつなげていかなければならないなと感じています。
参加型のものがすごく増えています。客席に降りて一緒に盛り上がるのは当たり前で、それ以上にお客さまを巻き込んだ演出をする作品も多くなっています。お客さまも、ただ見るだけではなく、劇場でその瞬間を一緒に体験しにきているように思います。そもそも演劇は劇場という空間で、同じ空気、同じ熱量を体験することに意味があると思うのです。映画などと違い、舞台はお客さまの盛り上がり方次第でその日の作品の仕上がりも変わるとよく言われます。それは演劇の醍醐味(だいごみ)でもあり、最近の2.5D作品では、よりお客さまが積極的に参加する演出がされている作品の人気も高くなったように感じます。
業界全体が作品のクオリティーを上げていくことが急務だと思います。お客さまは、一度、つまらないと思ってしまうと、見にこなくなってしまうんですよ。エネルギーの薄い雑なものを作っていたらお客さまは離れていってしまいます。注目してもらえている今こそ、いい作品を提供し、いい体験をしてもらうことが業界全体としての課題だと思っています。
2018年頃から、「2.5次元バブル」「舞台バブル」とも呼べるような状況が続いてきました。そのような状況もあって、公演数も増えていましたが、今後は淘汰(とうた)されていくのではないかと思います。お客さまの目も肥えてきていますし、これからは中身がより吟味されてくる。ですから、当然、われわれはより良いものを提供していかなければならないと思っています。
協会としては、2020年はオリンピックイヤーということもあり、公式サイト内で「スポーツ特集」を組み、スポーツをテーマにした作品にスポットを当てていこうと考えています。また、オリンピックで海外の方が多く来日される機会でもありますので、海外の方にさらに知っていただくべく、2.5Dを紹介する英語のチラシを作り、各地の観光案内所などに設置し、認知度を上げていく活動を行う予定です。