森崎ウィン「自分と同じミャンマー出身の役がありがたかった」荻上直子監督「この役は森崎さんしかいないと」奇想天外な物語の舞台裏『まる』【インタビュー】

2024年10月17日 / 12:00

-モーが沢田に告げる「福徳円満、円満具足」という印象的なせりふが生まれた経緯を教えてください。

荻上 元々、「〇」というモチーフ自体が、ひらめきから生まれたものだったんです。そこからどのように物語を作っていこうかと調べるうち、仏教にある「円相」や「福徳円満、円満具足」という言葉にたどり着いて。

森崎 僕はそれを「生きて、歩いて息が吸えることが幸せ」と、自分の現状に満足することを促す言葉と捉えました。それを伝えて、突如有名になってしまった自分の境遇に戸惑っている沢田さんを励ますようなニュアンスなんだろうなと。剛さんとのお芝居も、事前に打ち合わせするわけでもなく、その場で起きたことに反応しながら会話をしていったら、自然と出来上がった感じです。

-初参加となった荻上監督の現場はいかがでしたか。

森崎 すごく楽しかったです。一つずつテストしながら丁寧に進めていく様子が、映画ならではだなと思って。中でもお気に入りは、横山がコンビニにやってくるシーンです。脚本を基に、どこまでも役を膨らませていく綾野さんが素晴らしくて。監督とのお話が盛り上がり、最終的には哲学的な話にまで広がっていったんです。その様子がとても映画らしく、大好きな瞬間でした。あまりにうれしすぎて、コンビニのカウンターの奥でこっそり「ふふっ」とほくそ笑んでいたくらいです(笑)。

荻上 堂本さんや綾野さんをはじめ、キャストの皆さんが、この映画が1ミリでも面白くなるにはどうしたらいいか考え、いろんなアイデアを出してくださったんです。とてもありがたかったです。

-荻上監督は、堂本さんを主演にした理由について「テレビで見た堂本さんがつらそうな様子に興味をひかれた」と語っていますが、荻上監督の作品は『かもめ食堂』から最近の『波紋』(22)まで、「生きづらさからの逃避」というモチーフが共通している気がします。その点、この作品では生きづらさを感じている沢田の逃避先がモーだと感じました。そういうものを自覚的に描いている部分もあるのでしょうか。

荻上 そうですね。私も含め、今の世の中、生きづらさを感じている人は多いと思いますし。

-その点に共感する人は多い気がします。森崎さんはどんな印象を?

森崎 高い目標を掲げ、手に入れたいものがあるからこそ、何かあると、生きづらさを感じたり、「うまくいかない」という言葉が出てきたりするんですよね。そういう意味では、生きづらさを感じるのは、決して悪いことではないのかなと。それでも、どうしてもつらくなったときは、世界に目を向け、いろんな境遇の人たちがいることを考えてみると、今の自分に満足できる瞬間もあるのではないでしょうか。それが、「円満具足」ということかもしれません。

-なるほど。

森崎 沢田さんについて僕が思ったのは、コンビニでモーくんと一緒にいるときだけ、彼はアーティストでいる必要がないんですよね。それが沢田さんにとって、「自分はこのままでいいのかな」と思える瞬間だったんじゃないかなと。モーくんを外国人にした意味は、そこにある気がします。日本人の固定概念に捉われず、世界に目を向けてみようよ、というメッセージが込められているのかなと。

荻上 森崎さんのお話を聞いて思い出したのが、私がアメリカに留学したときのことです。当時は私のほかにも、韓国や中国の方がいましたが、欧米の人たちから見れば全員、アジア人なんですよね。私は皆さんと親しくしていたんですけど、そんなに近い国同士が、ことあるごとにいがみ合うのは、ナンセンスだなと思って。世界に目を向けることは、大切ですよね。

森崎 でも、完成した映画を見た時、それくらい僕も考えさせられましたし、この作品に参加できたことがうれしかったんです。きっと僕にとって一生残る作品なので、ぜひ映画館でご覧いただけたらうれしいです。

荻上 ありがとうございます。実は今回、久しぶりに16ミリフィルムで撮影しています。というのも、私が意図した「ダークで笑える作品」には、フィルムのザラッと感じがぴったりな気がして。それをぜひ、映画館でご覧いただきたいです。

森崎 フィルムの味をしっかりと、映画館のスクリーンで味わってください!

(取材・文・写真/井上健一)

『まる』(C)2024 Asmik Ace, Inc.

『まる』 10月18日(金)ロードショー

  • 1
  • 2
 

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

【映画コラム】俳優同士の演技合戦が見ものの3作『爆弾』『盤上の向日葵』『てっぺんの向こうにあなたがいる』

映画2025年11月1日

『盤上の向日葵』(10月31日公開)  信州の山中で身元不明の白骨死体が発見される。現場には、この世に7組しか現存しない希少な将棋駒が残されていた。駒の持ち主は、将棋界にすい星のごとく現れた天才棋士・上条桂介(坂口健太郎)であることが判明。 … 続きを読む

福本莉⼦「図書館で勉強を教え合うシーンが好き」 なにわ男⼦・⾼橋恭平「僕もあざとかわいいことをしてみたかった」 WOWOW連ドラ「ストロボ・エッジ」【インタビュー】

ドラマ2025年10月31日

 福本莉⼦と⾼橋恭平(なにわ男⼦)がW主演するドラマW-30「ストロボ・エッジ  Season1」が31日午後11時から、WOWOWで放送・配信がスタートする。本作は、咲坂伊緒氏の⼤ヒット⻘春恋愛漫画を初の連続ドラマ化。主人公の2人を軸に、 … 続きを読む

吉沢亮「英語のせりふに苦戦中です(笑)」主人公夫婦と関係を深める英語教師・錦織友一役で出演 連続テレビ小説「ばけばけ」【インタビュー】

ドラマ2025年10月31日

-本作では主演の髙石さんの持ち味が存分に発揮されている印象ですが、共演の感想はいかがですか。  高石さんは、せりふなのか、素で笑っているのか、最初の頃はわからなかったくらい、お芝居が自然でなじんでいる感じがあります。それくらい、ご本人が面白 … 続きを読む

阿部サダヲ&松たか子、「本気でののしり合って、バトルをしないといけない」離婚調停中の夫婦役で再び共演 大パルコ人⑤オカタイロックオペラ「雨の傍聴席、おんなは裸足・・・」【インタビュー】

舞台・ミュージカル2025年10月31日

-今回演じるそれぞれの役柄については、今はどのように捉えていますか? 阿部 ミュージカル俳優という役柄です。離婚したいと言っていますが、ずっと裁判をしているので本当は嫌いじゃないんでしょうね。最後は優しくなるんですよ。 松 そんなところまで … 続きを読む

高杉真宙「見どころは、何よりも坂口健太郎さんと渡辺謙さんの演技だと思います」『盤上の向日葵』【インタビュー】

映画2025年10月30日

-今後はどんな役をやってみたいと思いますか。  自分が選ぶよりは選ばれる仕事なので、自分からこの役をやりたいというのはないのですが、寡黙な役だったら、せりふは覚えなくていいのかなと(笑)。でもそれはそれで大変ですから、どんな役でもやりたいで … 続きを読む

Willfriends

page top