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企画の段階で、どんな作品にするか話し合った際、長田さんが「万太郎という『広場』に集まった人たちを描きたい」というようなことをおっしゃっていたんです。そこで、それぞれいろんな事情を抱えながら、広場に集まってきた人たちが、その真ん中にいる太陽のような存在の万太郎に影響されて変わっていく。そういうドラマが生まれていきました。
基本的には長田さんの脚本の上手さだと思いますが、そこに対してわれわれが何かお手伝いできているとしたら、キャスティングの部分ではないでしょうか。実際にスタジオで役者さんが演じている様子や完成した映像を見て、長田さんが刺激を受け、キャラがどんどん成長していく…。そういうことはあったかもしれません。キャスティングに関しては、僕だけでなく、ほかのプロデューサーやディレクターも含めてみんなで案を出し合い、決めているので、みんなの頑張りが認められたのだとしたら、うれしいですね。
大窪、波多野、藤丸については、モデルになった方の史実があるので、ある程度描かれるとは思っていましたが、想像以上にキャラが膨らんできましたね。一方、史実にない長屋の面々については、時代考証も踏まえて、彰義隊崩れの倉木さん(大東駿介)や作家志望の丈之助くん(山脇辰哉)など、「こんな人がいたら面白いよね」と長田さんと話し合いながら作っていきました。長屋の皆さんもそれぞれ見せ場があってキャラが立っているので、期待以上に育っているのもうれしい限りです。おかげで当初、万太郎くんは結婚したら長屋を出ていくと思っていましたが、予想以上に長くいることになりました。
これからもさまざまな人物が物語を彩ってくれますが、万太郎くんに最も近い人物としては、山元虎鉄という少年が登場します。少年時代を演じるのは寺田心くんで、彼は高知で万太郎くんのヤッコソウの発見を手伝った際、その学名に自分の名前が入ったことに感動し、10年後に上京して万太郎くんの助手として長屋で暮らし始めます。第2週で池田蘭光(寺脇康文)先生と少年時代の万太郎くんが関係を築いたように、今度は万太郎くんが先生となり、植物学を志す後進の虎鉄くんと交流するようになります。それをきっかけに、東大というアカデミズムの表舞台から降りた万太郎くんが、全国の植物愛好家のネットワークを築き、植物図鑑を完成させるという新たなフェーズに入っていきます。
これまでのところ、皆さんから予想を超える高評価を頂き、本当に幸せな作品になりました。私も毎回、わくわくしながら見ていますが、後半戦も期待を裏切らない見応えのあるドラマが出来上がってきています。引き続き、応援よろしくお願いします。
(取材・文/井上健一)