松下洸平と白洲迅、木下晴香ほか、豪華キャストが出演する、cube 25th presents 音楽劇「夜来香(イエライシャン)ラプソディ」が3月12日から上演される。本作は、第2次世界大戦末期、治外法権が存在した上海の租界を舞台に、新進気鋭の作曲家と絶世の歌姫など、さまざまな人々が、音楽を通じて絆を結び、人種やイデオロギーの壁を乗り越えてコンサートを開催しようと葛藤する姿を描く。実在する「夜来香」の作曲家・黎錦光(れいきんこう)を演じる白洲に、初共演となる松下との稽古について、役柄への思い、公演への意気込みなどを聞いた。
-舞台出演は2018年以来となりますが、本作に出演することにどんな期待がありましたか。
やはり、主演の松下洸平くんと一緒にやれるというのがすごく貴重な経験になると思っています。実際に稽古に入って、洸平くんがこれまで舞台を積み重ねてきた中で経験をしてきたたくさんのことを改めて感じています。同年代の洸平くんから、そうしたことが学べるのは、先輩や年上の方から学ぶこととはまた違った学びがあると思うので、僕にとって刺激的な現場になっています。
-例えば、どんなときに松下さんの経験値を感じているのですか。
まずは、主演として現場を引っ張っている姿。それから、台本の読み方だったり、深いところまで掘り下げて役を作っているところはすごいなと思います。初対面の方が多い現場の場合、稽古の序盤から役者同士で深い話をすることはなかなかできませんが、今回は、洸平くんとは年齢が近く、同じ事務所で気心が知れた相手であるということもあり、最初からディスカッションできているのがとてもありがたいです。
-では、最初に脚本を読んでどんな感想を持ちましたか。
終戦間際の上海という時代背景もあり、一筋縄ではいかない作品だなというのが正直な感想です。租界と呼ばれる治外法権の場所で生きている人たち、しかも日本人の作曲家と中国人の作曲家、そして李香蘭と名乗る日本人であることを隠して中国人として生きている歌手の女性の物語ですが、それぞれが抱えているものを掘り下げるとすごく複雑です。ただ、ストーリー自体は、そうした人物たちが皆で、さまざまな壁を乗り越えてコンサートを作り上げていくという分かりやすいものなっています。難しい時代背景を僕たちなりにそしゃくしながら、この群像劇をしっかりと伝えていけたらと思います。
-白洲さんが演じる黎錦光は、「夜来香」という楽曲を作った作曲家です。白洲さんは、今現在、どのように黎錦光という人物を捉えていますか。
黎は、「夜来香」が中国でヒットした、新進気鋭の若手作曲家ではありますが、一方で、日本軍からの弾圧を受け、苦悩しながら音楽に向き合っていました。戦時下で、自由がない中で、自由に作りたいともがいていた男だと思います。今作の脚本では、(松下が演じる)服部(良一)さんが、非常に熱血漢に描かれていますし、それを洸平くんが高い熱量で演じているので、そのエネルギーに負けないようにしないといけないと思いながら、今、稽古をしています。同じ作曲家ではあるけれども、違う熱量を持っていると思うので、その対比や色分けはしっかりと出していきたいです。
-黎錦光は実在した人物ですが、実在の人物を演じるときと、創造したキャラクターを演じるときの違いはありますか。
史実だったり、その人を知る資料があったり、頼りになるものがあるのかないのかという違いはあると思います。それから、実在した人物の場合は、その人物を世間の人がどれだけ知っているのかも考えなくてはいけないところです。やはりパブリックイメージがある人の場合には、そこは意識して演じなければいけないと思いますし、逆にそれがない人物ならばイメージにこだわらなくていいのかなと思います。今回の黎の場合には、「夜来香」という楽曲の方が印象深いでしょうし、日本の方々には、あまり知られていない存在なので、台本から受けた印象で役を作っています。
-今回は「音楽劇」ということなので、白洲さんの歌声も聞けるのでしょうか。
少しだけですが(笑)。当たり前ですが、頑張らないといけないなと思っています。共演者の皆さんは歌える方ばかりですし。
-この作品では、音楽やコンサートといったものがテーマになっていますが、白洲さんにとっての音楽とは?
すごくかっこをつけた言い方ですが、「そこにあるもの」ですね。気付いたら当たり前のようにそばにあるものです。確かに、なくてはならないものではないかもしれませんが、気持ちを盛り上げてくれて、悲しいときには寄り添ってくれる、人生を豊かにしてくれるものです。
-普段からよく音楽を聞いているんですね。
僕は、自分の車で移動することが多いのですが、そのときは、だいたい音楽をかけて熱唱しています(笑)。
-どんな音楽が好きなんですか。
バンド系が多いですけど、こだわりなく、幅広く聞いています。失恋ソングはよく聞くかな。おセンチな気持ちになりたくなるんですよ(笑)。
-ところで、現在も新型コロナが舞台業界に大きな影響を与えていますが、こういった難しい状況の中で舞台に出演することについて、どんな思いを持っていますか。
個人的には「ぜひ見に来てください」とは言えない状況だとは思っています。ですが、ありがたいことに、それでも見に来てくださる方はきっといて、僕たちはそんな方たちに生かされているんだと思います。だからこそ、しっかりとお返しをしなければいけないという思いです。この作品は、今とは状況は違いますが、同じように閉塞感がある時代のお話です。劇中では、(主人公たちが)戦時下でコンサートを開くために奔走していますが、それは今のこの時世とリンクするものがあります。だからこそ、今、やるべき作品なのではないかと感じますし、今の自分たちに重ねて見ることができる作品になるんじゃないかと思います。
-改めて、本作への意気込みと、公演を楽しみにしている人たちにメッセージを。
まず、このコロナ禍という大変な時期に、舞台に足を運んでくださる皆さんに感謝を伝えたいと思います。この作品は、今のこのご時世と重なる部分があると思います。苦しい時代に、純粋に音楽を楽しもうとしている人たちのお話なので、音楽を楽しみに、そして、僕たちの群像劇を楽しみに来ていただけたらうれしいです。
(取材・文・写真/嶋田真己)
cube 25th presents 音楽劇「夜来香ラプソディ」は、3月12日~27日に都内・Bunkamura シアターコクーンほか、名古屋、大阪、長岡で上演。
公式サイト https://www.cubeinc.co.jp/archives/theater/cube25thpresents