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「伊藤博文役は、自分の留学経験とリンクする部分があった」山崎育三郎(伊藤博文)【「青天を衝け」インタビュー】

 NHKで好評放送中の大河ドラマ「青天を衝け」。主人公・渋沢栄一(吉沢亮)がついに明治新政府で働くことになった。その新政府で栄一と出会ったのが、栄一同様に海外滞在経験のある後の初代内閣総理大臣・伊藤博文だ。演じるのは、昨年は連続テレビ小説「エール」)でも活躍し、今回が大河ドラマ初出演となる山崎育三郎。「自分の経験とリンクする部分があった」と語る伊藤役に込めた思いや劇中での見どころなどを語ってくれた。

伊藤博文役の山崎育三郎

-大河ドラマ初出演が決まったときの気持ちを聞かせてください。

 NHKさんでは昨年、「エール」で、自分がずっとやってきた音楽が生かせる役を頂いた上に、「紅白歌合戦」でも歌うという、素晴らしい経験をさせていただきました。それに続いて、今年は大河ドラマへの出演。大河ドラマといえば、僕がずっとやってきたミュージカルにたとえるなら、帝国劇場の舞台に立つような憧れのステージです。だから、出演が決まったときは、すごくうれしかったです。

-演じる伊藤博文の印象は?

 両親や祖父母には「千円札の伊藤博文よ」なんて言われるんですけど、僕が生まれた1986年にちょうど新札に切り替わってしまったので、見たことがないんです。だから、全くピンとこなくて(笑)。ただ、写真からはひげを蓄えて一見怖そうな雰囲気で、ドシっと構えた印象を受けましたが、今回演じるためにいろいろ勉強してみたところ、ものすごく苦労されていて、泥くさくて男っぽい人だったんだなと。自分がイメージしていた人物とは真逆だったな、というのが最初の印象です。

-留学経験のある山崎さんは、外国で学んだ伊藤と共通点があるように思いますが、演じる上で役立っている部分はありますか。

 伊藤さんは“長州ファイブ”の1人として留学を経験していますが、当時、彼が目にした外国の姿はまさにカルチャーショックで、その影響はものすごく大きかったと思うんです。僕も高校生のときに1年間、アメリカに留学しましたが、留学先が地方の学校で、生徒2千人の中でアジア人は僕だけという環境で過ごしたので、孤独を感じる時間が多かったんです。そういう生活の中で、自分自身も性格的にものすごく変わりましたし、もちろん英語もたくさん勉強しました。正直、差別的な扱いを受けたこともあります。伊藤博文を演じる上で、そういう自分の留学経験とリンクする部分は少なからずあったと思います。

-山崎さんが考える劇中での伊藤の見どころは?

 伊藤は、年上・年下関係なく、人の間に入って、人をつなげていくような役回りを果たします。彼自身が優れた才能を持っているような感じではないのですが、人と人とのつながりをすごく意識していて、フットワークが軽い。だから、彼がいることで話がまとまっていく瞬間が多いんです。難しそうな人の懐にすっと入っていくのもうまいですし。その一方で一見、非常に真面目でりんとした人物をイメージするんですけど、そんなことは全くなく、すごく泥くさく、男くさいところがあり、感情で動いてしまう。僕が今まで出会ったことがないような人物なので、魅力的で面白い役だなと思いながら演じています。

-ミュージカルや歌手など音楽にも携わる人間として、芝居をするときに声の面で特に気をつけていることはありますか。

 今回の作品では、時代背景的にも、それこそ舞台で芝居をするぐらいのエネルギーが必要で、現代劇の場合とは声量が全く違うので、声はかなり出しています。長州言葉も、いろんな音が混ざり合っているのですごく難しい。ちょっと間違えただけで長州言葉に聞こえなくなり、先生から指導を受けるので、稽古でつけてくださった音を確実に自分の体に入れた上で、自分がどう表現したいか、ということを追加していく。そんな流れでお芝居を作っています。

-伊藤は明治政府の中で栄一と関わっていきますが、伊藤から見た栄一の存在とは?

 先ほどもお話ししたように、伊藤は人と人とのつながりを大事にして、情に厚く、人間的で泥くさい人です。でも、その一方で、品川の御殿山にあるイギリス公使館を焼き討ちするような攻撃的な一面も持っている。初めて出会ったとき、未遂に終わったものの栄一も似た経験をしていることを知り、「同じ魂を持っているやつなのでは?」と感じて、興味を抱くきっかけになったんです。その点、伊藤には栄一の才能を見抜く力がありましたし、そんな栄一の魅力を伝え、大隈(重信/大倉孝二)さんなどにつないでいく役割を果たすのが伊藤です。そういう意味で、「彼とだったら国を変えていけるんじゃないか?」と、栄一のことは同志のような気持ちで見ています。

-栄一役の吉沢亮さんと共演した感想は?

 吉沢くんとはだいぶ前に映画で共演したことがあり、そのときは好青年かつ美青年という印象だったんです。でも、今回、久しぶりに会ってみたら、男前で整った顔立ちをしているのは変わらないんだけど、渋沢栄一にしか見えない。実は、僕と吉沢くんには、男4人兄弟という共通点があるんです。そういう男くさい環境で育っているので、“男っぽさ”みたいなところが、話していてもすごく相性が合う感じがして。彼の心の内には、根性があって男くさい、渋沢栄一に近いものがあるんじゃないかなと。だから渋沢栄一にしか見えないんでしょうね。男から見てもかっこいいな、と思います。

-そうすると、伊藤と栄一の関係に、山崎さんと吉沢さんの関係が重なる部分もあったのでしょうか。

 そうですね。劇中で伊藤が栄一に対して興味を抱くシーンがあったんですけど、そこで2人の息が合う瞬間というか、掛け合いみたいになる瞬間というのは、相手が吉沢くんだからこそ生まれたお芝居じゃないかと思います。それほど付き合いが長いわけではないのに、お互いに信頼して表現をぶつけ合うことができる。それはやっぱり、根本的に男っぽさをお互いが持っているからかなと。だから、一緒にやっていてすごく気持ちいいです。

(取材・文/井上健一)

伊藤博文役の山崎育三郎(左)と井上馨役の福士誠治

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