X


【インタビュー】ミュージカル・ゴシック「ポーの一族」明日海りお&千葉雄大「耽美な世界観」の中でのリアリティー

 1972年に連載がスタートして以降、少女漫画の枠を超えて愛され続けている萩尾望都の伝説的名作『ポーの一族』を原作としたミュージカルが3年ぶりに上演される。小池修一郎の脚本・演出のもと、2018年に宝塚歌劇団花組で初演された本作は、明日海りおが主人公エドガーを、原作さながらのビジュアルと巧みな表現力で演じて大好評を博した。今回の上演では、宝塚歌劇団を退団後、初のミュージカルへの出演となる明日海が、エドガー役に再び挑戦する。さらに、本作でミュージカル初挑戦となる千葉雄大がアラン役を演じることも大きな話題を呼んでいる。今回、明日海と千葉に、作品への思い、新たな挑戦への意気込みを聞いた。

千葉雄大(左)と明日海りお

-明日海さんが、本作に再び挑戦することを決めた思いを聞かせてください。

明日海 私にとって、エドガーは本当に思い入れのある役ですので、今回、こういった形で再びエドガーと巡り会えたことはすごくうれしいです。この作品は、ほかの作品とは一味も二味も違う、独特な世界観がある作品です。今回は(初演時とは)環境も大きく変わりますし、私自身も、幕が開く頃にはブランクが1年以上ある状態になりますので、不安ももちろんありますが、来ていただいたお客さまに、「初演のときとはまた違った良さがある」「何回も見たい」「見てよかった」とおっしゃっていただけるような舞台になるよう取り組んでいきたいと思っています。

-今回は、宝塚版とはまた違った作品になると思いますが、どんなところが楽しみですか。

明日海 男性の役は実際に男性が演じることで、宝塚版より本来の漫画『ポーの一族』には忠実になります。千葉さんは映像で活躍されていて、たくさんの作品にご出演されてきたご経験がありますし、ミュージカルや舞台の経験豊富な共演者の方もたくさんいらっしゃいますので、新たな刺激を受けられることも楽しみです。

-千葉さんは、初ミュージカルで、定評のある作品に出演されることについて、どのような思いがありますか。

千葉 僕自身、ミュージカルを見るのが好きですし、ずっとやりたいと思っていたので、出演させていただけることはすごくうれしいです。ただ、もちろん課題もいっぱいあります。僕にとっては、未知の世界で、失うものはないので、全てがプラスになるという気持ちで臨ませていただきます。

-今回、初挑戦しようと思うきっかけはあったのですか。

千葉 以前から、ミュージカルをやりたいということは口に出していました。その中で頂いたお話だったんで、逃げられないという状況でもあって(笑)。でも、この作品でエドガーとアランが巡り会ったように、僕もこの作品と巡り会ったということなのかなとも感じ、今なんだと腹をくくりました。まだ分からないことだらけですが、いろいろなものを削ぎ落として、伝えたいことだけをシンプルに考えて、それに肉付けしたものをお見せできればと思っています。もちろん、ビジュアル的な美しさに関しては、これからもっと頑張っていきたいなと思っていますので、本番までにより磨きをかけたいと思います。

-では、明日海さんから見て、この作品の魅力は?

明日海 私がまず引かれたのは、漫画に登場する人物の美しさや色気です。エドガーに漂っているオーラは、後ろ姿からも感じられて、ただただ美しい。それに、漫画は白黒で描かれているものなのに、読んでいると色彩が広がるような感覚があります。作中、エドガーたちは各国を訪れますが、その世界観が各地で広がり、そこでまたドラマが生まれるのが素晴らしいと感じています。宝塚では、それらを上演時間の中にギュッと詰め込んで、歌やダンスでより華やかに世界観を広げました。今回は、よりリアリティーのある作品になると思いますが、その世界観は変わらず、きっとすてきなものになると思います。

-千葉さんは、原作の漫画や宝塚版を見て、どんな感想を持ちましたか。

千葉 僕、宝塚の作品を見たのは初めてだったんですが、生で見たらさらに素晴らしいだろうなと感じました。映像で見たので、表情をクローズアップされるシーンも多かったのですが、目線一つで伝わってくるものがあり、感動しました。原作は、宝塚版とはまた違った楽しみ方があり、物語の面白さと美しさに引き込まれました。明日海さんがおっしゃったように、白黒なのに色が広がるというのは、本当にそうだと今すごく思いました。

-現時点で、エドガーとアランというキャラクターをどう捉えていますか。

千葉 (演出の)小池先生が、「アランはツンデレだ」とおっしゃっていたのですが、そのツンデレのアランを輪切りにしたときに出てくるものを大事にして演じたいと思っています。彼が抱えているものだったり、エドガーに対しての思い、ラストにはどんなことを思うのかということを考えて演じられたらと思います。

明日海 私は、初演時は、アランは虚勢を張っているという印象がありました。それ故、エドガーからすると、もろさも弱さも次から次へとあふれ落ちてみえて…。エドガーは彼の抱えているフラストレーションと生命の輝きを感じたんだと思います。巡り会ったことで、お互いが唯一無二の存在になっていく姿が漫画の中でも描かれています。ただ、エドガーを、こうだと分析するよりは、アランやメリーベルなどと接していく中で作っていきたいと思っています。

-公演を楽しみにされている方へメッセージを。

明日海 私自身もこの作品が小池先生によってどのような作品になるのか本当に楽しみにしています。初演の際に、萩尾先生が初日をご覧になって「夢のようでした」とおっしゃっていただいたので、その夢の続きをお見せできるように頑張ります。お客さまにも喜んでいただける作品になると信じておりますので、期待をたくさん膨らませて見にきてください。

千葉 耽美な世界観が広がる作品です。でもそこには、さまざまな人間らしい感情が渦巻いていて、人間くさい作品でもあると僕は思ったので、それが伝わるような血の通った作品を作り上げたいと思います。非現実的な世界観を楽しみつつ、ご覧になる皆さまの体にもその血が流れたらいいなと思っています。

(取材・文・写真/嶋田真己)

 ミュージカル・ゴシック「ポーの一族」は、1月11日~26日に大阪・梅田芸術劇場メインホール、2月3日~17日に東京国際フォーラム ホールCで上演。
公式サイト https://www.umegei.com/poenoichizoku/

ミュージカル・ゴシック「ポーの一族」

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

海宝直人&村井良大、戦時下の広島を舞台にした名作漫画をミュージカル化 「それでも生きていこうというエネルギーをお見せしたい」【インタビュー】

舞台・ミュージカル2024年5月9日

 太平洋戦争下の広島県呉市に生きる人々の姿を淡々と丁寧に描いた、こうの史代氏による漫画「この世界の片隅に」がミュージカル化され、5月9日から上演される。主人公の浦野すず役をWキャストで務めるのは、昆夏美と大原櫻子。すずが嫁ぐ相手の北條周作を … 続きを読む

「ジョンは初恋の人、そしてかけがえのない友達」『ジョン・レノン 失われた週末』メイ・パン【インタビュー】

映画2024年5月9日

 ジョン・レノンとオノ・ヨーコ夫妻が別居していた「失われた週末」と呼ばれる、1973年秋からの18カ月の日々。その時ジョンは、彼とヨーコの元・個人秘書で、プロダクション・アシスタントを務めていた中国系アメリカ人のメイ・パンと恋人関係にあった … 続きを読む

北村匠海「長谷川博己さんのお芝居は、やっぱり迫力がすごい」 日曜劇場「アンチヒ-ロ-」【インタビュ-】

ドラマ2024年5月8日

 長谷川博己が主演を務める日曜劇場「アンチヒーロー」(TBS系)が放送中だ。本作は殺人犯をも無罪にしてしまう“アンチ”な弁護士・明墨正樹(長谷川)の姿を描き、視聴者に“正義とは果たして何なのか? ”“世の中の悪とされていることは、本当に悪い … 続きを読む

玉置玲央「柄本佑くんのおかげで、幸せな気持ちで道兼の最期を迎えられました」強烈な印象を残した藤原道兼役【「光る君へ」インタビュー】

ドラマ2024年5月5日

 NHKで好評放送中の大河ドラマ「光る君へ」。5月5日放送の第十八回で、主人公まひろ/紫式部(吉高由里子)にとっては母の仇に当たる藤原道長(柄本佑)の兄・藤原道兼が壮絶な最期を迎えた。衝撃の第一回から物語の原動力のひとつとなり、視聴者に強烈 … 続きを読む

「光る君へ」第十七回「うつろい」朝廷内の権力闘争の傍らで描かれるまひろの成長【大河ドラマコラム】

ドラマ2024年5月4日

 NHKで好評放送中の大河ドラマ「光る君へ」。4月28日に放送された第十七回「うつろい」では、藤原道長(柄本佑)の兄である関白・藤原道隆(井浦新)の最期が描かれた。病で死期を悟った道隆が、嫡男・伊周(三浦翔平)の将来を案じて一条天皇(塩野瑛 … 続きを読む