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【インタビュー】映画『2分の1の魔法』ダン・スキャンロン監督&コーリー・レイ、プロデューサー「この映画は、家族や自分たちの周囲にいる人とのつながりについて描いています」

 魔法が忘れられてしまった世界を舞台に、亡くなった父親にもう一度会いたいと願う兄弟が、魔法によって半分だけ復活した父を完全によみがえらせるために奮闘する姿を描く、ディズニー・ピクサーアニメの最新作『2分の1の魔法』が8月21日から公開される。ダン・スキャンロン監督とプロデューサーのコーリー・レイに話を聞いた。

ダン・スキャンロン監督(左)とプロデューサーのコーリー・レイ

-『トイ・ストーリー4』(19)のジョシュ・クーリー監督が「今、ピクサーで開発中の映画はシリーズものではなく、全てがオリジナル」と言っていましたが、この映画はそのうちの1本でしょうか。

スキャンロン そうです。この映画は間違いなく、パイプラインの中のオリジナル映画の1本です。この後にもたくさんの映画が公開されます。とてもユニークで、オリジナリティーにあふれた映画を作るピクサーにとって、今はとてもエキサイティングな時。僕らはとても興奮しています。

-この映画は、監督のお父さんへの思いを反映していると聞きましたが、『リメンバー・ミー』(17)同様、生者と死者との関係や、家族の絆がテーマになっていました。今、なぜこうしたテーマの映画が続けて作られるのでしょうか。個人的には、この映画を見て、『フィールド・オブ・ドリームス』(89)という映画を思い出しました。

スキャンロン 死について描いた映画は、同時に生についても語っていると思います。それらは、誰かの人生を祝福すること、人生にはどんな目的があるのかという疑問や、生きている間に人は人の心にどのように触れるのか、といったことを描いています。ですから、見る人に、とても美しい影響を与える作品に成り得ると思います。そして、なぜピクサーがこういうテーマに引かれるのかという理由は、僕らがいつも、映画を通して大きな課題を掘り下げたいと思っているからです。生と死は間違いなく大きな課題で、多くのことを含んでいますし、それは普遍的な課題だと思います。

-この映画に登場するのは、エルフという不思議なキャラクターですが、なぜ普通の人間ではなく、あのような見た目のキャラクターを主人公にしたのでしょうか。

レイ 私たちには、魔法が存在する世界を作り出す必要があったので、ファンタジーの世界を舞台にしようと決めました。そうなると、それに合うキャラクターを考えなければなりません。また、現代の世界や設定に、みんなが知っているファンタジーの要素にあふれたキャラクターを入れ込むのは、とても楽しいだろうとも思いました。そこでエルフを思い付きました。彼らは、先のとがった耳をしているけれど、人間のようにも見えます。エルフなら感情表現ができて、観客の共感を呼ぶこともできると思いました。

-原題の「オンワード」には「前進」という意味があり、主人公の兄弟の名字は「ライトフット」です。この二つの単語に込めた意味を教えてください。

スキャンロン 「オンワード」は、あなたがおっしゃるように「前進する」ということです。この映画は、人生の悲劇から立ち直って、前進することを描いています。大人になることについて描いた映画なのです。それから、僕は「オンワード」という言葉自体が好きです。それは、アドベンチャーやジャーニーのような意味にも取れるからです。この映画は、間違いなく冒険映画です。また、発見についての映画でもあります。だからタイトルの「オンワード」には、前進し、大人になり、成長する、というポジティブなアイデアが詰まっています。

 それから、「ライトフット」には何の意味もありません(笑)。ただ、ファンタジーの名前みたいに聞こえるからそうした、というだけです。その理由として「実は深い考えがあって…」と言えたらいいのですが、本当にありません。何か意味のある、違う名前にしようかとも思いましたが、その時点では、すでに僕らは「ライトフット」という名前が気に入っていたので、そのままにしました。

-本作のアニメーションについて、色や形を工夫するなど、何か新たに試したことはありますか。

スキャンロン デザインやアニメーションのスタイルに関しては、アニメーターたちが作業をしながら楽しいと感じるものにしたいと思いました。例えば、超リアリスティックであったり、解剖学的であったり、自然主義的であったり…というようななものではなく、ユニークなものにしたかったのです。そして作品全体やデザインに、ユーモアが感じられるものにしたかった。それは僕らにとってとても重要なことでした。

 この映画は、とても感動的だけど、コメディーの要素もたくさん詰まっています。そして、「人生はコメディーだ」という言葉のように、この映画を、楽しくておかしなものにしたかったのです。また、これまでは、コメディー的な要素のあるファンタジー映画はあまりありませんでしたし、多くのファンタジー映画に登場したケンタウロスやユニコーンのようなクリーチャーを見ると、彼らはとてもシリアスに、とても優雅に美しく描かれています。なので、この映画では あえてそうした要素を入れずに、もっと自由に楽しみたいと思ったのです。

-イアン役のトム・ホランドとバーリー役のクリス・プラットの声の出演をどう思いましたか。

レイ 彼らは2人とも素晴らしくて、イアンとバーリー役にぴったりでした。トムは、自分に自信がなくて、内気でぎこちないけど、同時に人々が共感できる魅力も持ったキャラクターを見事に演じてくれました。クリスは、もともとすごく楽しい人です。私たちは、バーリーのキャラクター作りにはとても自信があったので、その役には、大きな心や、ユーモアにあふれた面白い人が必要だと考えました。クリスはそれらの要素を全て持っていましたし、心を込めて演じてくれました。私たちは、観客に、イアンとバーリーに恋をしてもらいたいと考えていました。特にバーリーの広くて大きな優しい心に触れ、彼がどのように弟を思っているのか、ということを知ってほしかったのです。その意味で、クリスはバーリーを完璧に演じてくれました。

-最後に、映画の見どころと日本の観客に一言メッセージをお願いします。

スキャンロン 僕らは、この映画の、ユーモアがあって面白くて笑いを誘うところが大好きです。僕らにとって、この映画はとてもエモーショナルで感動的なものです。そして、映画作りを通して、自分を応援してくれた人々に感謝する気持ちを分かち合えたことはとても重要でした。人々が、この映画を見て笑ってくれることを願っていますし、キャラクターに自分自身に重ねて、共感できる部分を見つけたり、家族や自分の人生に関わる人々に感謝して、素直な思いを伝えてくれたらいいと思います。

レイ 私もそう思います。この映画は、家族や自分たちの周囲にいる人とのつながりについて描いています。日本のファンの人たちが、そうしたことに共感し、映画の中の、より深く、リアルで強いテーマを見つけてくださるといいなと思います。それは、例えば、人とのつながりということ、誰かを応援して支えるということ、自信をつけることなどです。それらが日本の皆さんの共感を呼ぶことを願っています。

(取材・文/田中雄二)

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