X


【インタビュー】舞台「脳内ポイズンベリー」市原隼人「役者として本来の仕事ができるのが舞台。初心に返って、一つ一つ繊細にアプローチしていきたい」

 「失恋ショコラティエ」などで知られる水城せとなの漫画『脳内ポイズンベリー』が舞台化され、3月14日から上演される。本作は、一人の人間の頭の中で擬人化された五つの思考が“脳内会議”を繰り広げるというラブコメディー。“脳内会議”の議長・吉田役で主演する市原隼人に、本作の魅力、そして公演への意気込みを聞いた。
 

吉田役の市原隼人

-2015年には映画化もされた大人気漫画を原作とした舞台になりますが、出演が決まったお気持ちからお聞かせください。

 役者にとって、舞台は必要不可欠なものであると、自分の中では認識していますので、その舞台に立てるということをまずうれしく思っています。
 

-舞台のどのようなところに役者としての必然性を感じているのですか。

 幕が開いてから最後まで、芝居を通してお客さまに生で楽しんでいただくということは、映像ではできないことなので、そういった意味で舞台は特別な空間だと思います。映像は、その一瞬を総合芸術で見せるものだと思うのですが、舞台は稽古を繰り返し、試行錯誤をして、さまざまなことを考えて、最後にそれを放出することだと思うので、懸ける思いが違います。僕の中では今でも憧れの場で、今回、また新たな闘いができそうだと感じています。この作品は、人に見せることがない、頭の中での様子を描いたものなので、お客さまの共感を得られると思います。この時代だからこそできるもの、そして、なぜこの作品が今、舞台化されることになったのかという意味を自分の中で探しながら、演出家やキャストたちと作品をしっかりと作っていきたいと思っています。
 

-「舞台は特別なもの」というお言葉もありましたが、市原さんにとって、舞台に出演することは挑戦の意味合いが強いんでしょうか。

 確かに最初は「挑戦」でしたが、今は、役者として本来の仕事ができるのが舞台だと思っています。ステージの上でお芝居をすることで、お客さまに喜んでいただき、感情を動かし、新たな経験を提供して、より豊かな生活の一部になることを目指す舞台というものは、役者が本来あるべき姿だと思うんです。なので、挑戦というよりも、原点に戻るという思いを持って、初心に返って、一つ一つ繊細にアプローチしていきたいと思っています。
 

-原作、脚本を読んだ感想は?

 映画化もされた作品なのですが、今回は原作も映画も事前に見ないで稽古に入ろうと思っています。まずは脚本を読んで舞台ならではのお話を作っていきたいと思います。舞台では、脳内での出来事と現実で起こっているシチュエーションを同時に描くことができるので、原作にも映画にも見ることができないものが表現できますし、脳内の感情が擬人化されて会議をするというのは、誰にでも起こっていることだと思うので、親しみのあるストーリーになると思います。
 

-原作を読まないのはどうしてですか。

 まずは、演出家をはじめとしたスタッフ、キャストたちと作品を作り上げていきたいと考えているんです。でも、それは原作をないがしろにするということではなく、敬意はしっかりと持って、まずは脚本に向き合いたいということです。稽古が中盤になったら、改めて原作を読んで、より役柄を深めていきたいとは思っています。
 

-では、本作で演じる吉田という役については、今現在、どのように捉えていますか。

 吉田は脳内会議の議長を務めるキャラクターです。その時々で感情をチョイスしていかなければならないので、ある意味、ストーリーテラーのような立ち位置でもあり、一方で議長であるがゆえに、人間くさいところもあるんです。議長という立場上、受け身でいることが多いのに、受け身になりきれないギャップを抱えている人物なので、そこは意識しながら、楽しんで演じられればいいなと思っています。
 

-現実世界を生きる、いちこ役の蓮佛美沙子さんの印象は?

 しっかりと向き合って演技をさせていただくのは今回が初なのですが、舞台に数多く出演されているイメージがあったので、安心して全てを任せられる方だと思っています。実はストレートプレーが初めてだと聞いて意外に思っていますが、すてきなお芝居を見せてくれると思います。
 

-脳内会議をするキャラクターを演じるのは、早霧せいなさん、グァンスさん(SUPERNOVA)、本高克樹さん(7 MEN 侍/ジャニーズJr.)、斉藤優里さんとバラエティー豊かな顔ぶれです。皆さん、初共演ですか。

 そうです。なので、稽古に入ってみないとどうなるのか分かりませんが、今は本当に楽しみです。それから、演出の佐藤(祐市)さんとは『ウォーターボーイズ2』以来、15年ぶりにご一緒するので、それも楽しみです。
 

-演出の佐藤さんは、映画監督として数々の作品でメガホンを取っていますが、舞台の演出は本作が初となります。佐藤さんの印象は?

 『ウォーターボーイズ2』を撮影していた当時、僕は素人同然で、俳優としての自覚もない状態でしたが、佐藤さんはいつも気を使ってくださって、壁を作らず自然体で現場にいてくださる方でした。どんなに寒い中でもプールに入って練習をしなければならなかったので、本当に大変な現場ではありましたが、最後には涙が止まらなくなるほど「終わりたくない」という感情が芽生えていました。そんな環境を作ってくださった方なので、信頼感はすごく強いです。

-ところで、本作で描かれている脳内会議を市原さんご自身も行うことはありますか。

 もちろん、ありますよ(笑)。時には自制心が抑えられなかったり、欲に負けてしまったりもします(笑)。この作品では、そういった人間くさい部分もまた面白いと思いますが、現実社会で自分を省みてみると愚かさしかないです(笑)。
 

-改めて、公演への意気込みを。

 普段は表に出ることがない感情たちのあふれ出す思いをご覧いただける、貴重な作品になると思います。この作品を見ることで、価値観や視点、感じ方がより豊かになると思うので、ぜひご来場いただけたらうれしいです。笑えるところもあり、人間の愚かさに共感できるところもあり、ともに苦しむ場面もある見どころいっぱいの作品ですので、ぜひ楽しみにいらしてください。
 
(取材・文・写真/嶋田真己)
 

舞台「脳内ポイズンベリー」

 舞台「脳内ポイズンベリー」は3月14日~29日、都内・新国立劇場 中劇場で上演。
公式サイト https://www.nounai-poison-berry.jp

 

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

「光る君へ」第十六回「華の影」まひろと道長の再会からうかがえる物語展開の緻密さ【大河ドラマコラム】

ドラマ2024年4月27日

 NHKで好評放送中の大河ドラマ「光る君へ」。4月21日に放送された第十六回「華の影」では、藤原道隆(井浦新)率いる藤原一族の隆盛と都に疫病がまん延する様子、その中での主人公まひろ(吉高由里子)と藤原道長(柄本佑)の再会が描かれた。  この … 続きを読む

宮藤官九郎「人間らしく生きる、それだけでいいんじゃないか」 渡辺大知「ドラマに出てくる人たち、みんなを好きになってもらえたら」 ドラマ「季節のない街」【インタビュー】

ドラマ2024年4月26日

 宮藤官九郎が企画・監督・脚本を手掛けたドラマ「季節のない街」が、毎週金曜深夜24時42分からテレ東系で放送中だ。本作は、山本周五郎の同名小説をベースに、舞台となる“街”を12年前に起きた災害を経て建てられた仮設住宅のある“街”へと置き換え … 続きを読む

【週末映画コラム】全く予測がつかない展開を見せる『悪は存在しない』/“反面教師映画”『ゴジラ×コング 新たなる帝国』

映画2024年4月26日

『悪は存在しない』(4月26日公開)  自然豊かな高原に位置する長野県水挽町は、東京からもそう遠くないため移住者が増加し、緩やかに発展している。代々その地に暮らす巧(大美賀均)は、娘の花(西川玲)と共に自然のサイクルに合わせたつつましい生活 … 続きを読む

志田音々「仮面ライダーギーツ」から『THE 仮面ライダー展』埼玉スペシャルアンバサダーに「埼玉県出身者として誇りに思います」【インタビュー】

イベント2024年4月25日

 埼玉県所沢市の「ところざわサクラタウン」内「角川武蔵野ミュージアム」3Fの EJアニメミュージアムで、半世紀を超える「仮面ライダー」の魅力と歴史を紹介する展覧会『THE 仮面ライダー展』が開催中だ。その埼玉スペシャルアンバサダーを務めるの … 続きを読む

岩田剛典 花岡の謝罪は「すべてが集約された大事なシーン」初の朝ドラで主人公・寅子の同級生・花岡悟を熱演 連続テレビ小説「虎に翼」【インタビュー】

ドラマ2024年4月25日

 NHKで好評放送中の連続テレビ小説「虎に翼」。明律大学女子部を卒業した主人公・猪爪寅子(伊藤沙莉)は、同級生たちと共に法学部へ進学。男子学生と一緒に法律を学び始めた。そんな寅子の前に現れたのが、同級生の花岡悟だ。これから寅子と関わっていく … 続きを読む