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【インタビュー】映画『影踏み』山崎まさよし “俳優”と見られることに「腹をくくった」 尾野真千子 “薄幸役”に自信「見せてやろうじゃない!」

 「半落ち」「64-ロクヨン-」などの横山秀夫の同名小説を実写映画化した、孤高の泥棒が事件を解き明かす異色の犯罪ミステリー『影踏み』で、プロの窃盗犯として生きる真壁修一役で主演を務めた山崎まさよしと、修一と恋仲の久子役で共演した尾野真千子。本作で初タッグを組んだ2人に、互いの印象や撮影時のエピソードのほか、山崎には役者を続ける理由を、尾野にははまり役ともいえる薄幸女性を演じる上での思いなどを語ってもらった。

 真壁は、住人が寝静まった民家で盗みを働く「ノビ師」と呼ばれるすご腕の窃盗犯だが、ある夜、侵入した家で就寝中の夫に火を放とうとする妻を止めた矢先、仕組まれたようにやってきた刑事に逮捕されてしまう。2年後、出所した真壁は、久子の制止を振り切り、自身を「修兄ィ」と慕う若者・啓二(北村匠海)と共に、あの夜の隠された真実に迫っていく…。

山崎まさよし(左 ヘアメイク:三原結花(M-FLAGS)/スタイリスト:宮崎まどか)と尾野真千子

-山崎さんは篠原哲雄監督の『月とキャベツ』以来14年ぶりの長編映画主演ですが、オファーを受けたときのお気持ちは?

山崎 『月とキャベツ』と同じ監督・スタッフなので断る理由がなく、二つ返事で引き受けました。逆に、このスタッフが集まって別の人を主演に据えていたら、「なんで俺やないねん!」ってなりますよね(笑)。

-そもそも、山崎さんが役者業を続けている理由は何でしょうか。

山崎 ウィキペディアで自分の名前を引いたら「ミュージシャン」「俳優」って書いてあるんです。10数年前は、数えるぐらいの作品しかやっていないし、「俳優」は取った方がええんちゃうかなって思っていたんです。でも、デビューから四半世紀にわたって芸能界で生きてきて、自分の見られ方に腹をくくった方がええんちゃうかなってなったんですよ。それに加えて、今回は条件がそろっていて、断る理由もなかったので引き受けました。

-芝居に対する魅力も感じていますか。

山崎 それは経験があまりないので分からないです。ただ、芝居がうまくいって、監督からOKをもらったら、「やった! 今のよかったんか?」とうれしくなります(笑)。

-今回はアウトローだけれども、人間味のある真壁を丁寧に演じられていましたが、どのように役と向き合い、役作りをされましたか。

山崎 例えば、刑事や検察官、医者や弁護士といった役を僕が演じてもリアリティーがないけど、泥棒を「自分の腕一本で生きてきた職人気質の男」と捉えるのであれば、ミュージシャンである自分でも演じられる気がしました。役作りは、演技のスキルがないのに作り込み過ぎるのは怖いので、あえてしませんでしたが、真壁を突き動かす情念や過去に対する葛藤については考えていました。

-篠原監督からはどのような演出を受けましたか。

山崎 「どうしますか?」と聞いても、逆に「山ちゃん、どうしたい?」と言われることの繰り返しでしたね。結局自分で考えて出しても、「それはないな」って言われたり、編集でカットされたり…。みんながどうしていいか分からなくなるときってあるんですよ。でも、これが映画なんだと思ってやるしかなかったです。

-尾野さん演じる久子は、保育士の仕事を続けながら、ノビ師の修一を愛し続ける女性ですが、出演を決めた理由は何でしょうか。

尾野 脚本に引かれたことはもちろんですが、「山崎まさよしさんと芝居ができるって面白いやん!」と思ったのが決め手でした。

-実際に共演されていかがでしたか。

尾野 ミュージシャンだからなのか、普通の役者とは違いました。お芝居がストレートで、作られていない正直さがあって好きです。すてきな感性にズキュンと来ました(笑)。

-久子のように薄幸の女性を演じることが多いですが、尾野さん自身は関西ノリで明るい性格ですよね。このような女性を演じるときはどのような心持ちなのでしょうか。

尾野 自分と真逆の女性役はやりやすいです。やりがいもあり、「見せてやろうじゃない!」という気持ちになるので、性悪女や人を殺す役は楽しんでやっています。逆に、自分に似ている女性を演じる方がなぜかしっくりこないので、コメディーとかは苦手です。

-役作りは事前にされる方ですか? それとも現場の空気を感じながら感覚で作っていく方ですか。

尾野 感覚です。だって山崎まさよしという人がどんな人か分からないから、役を作っていってもひっくり返されると思うんです。なので、普段からなるべく作らず、現場で「そういう感じでやられるんですね」と相手を見ながら構築していきます。

-山崎さんは映画音楽も担当されていますね。主題歌「影踏み」は哀愁のあるバラードに仕上がっていますが、どのようなメッセージを込めたのでしょうか。

山崎 映画の中は嫌なことしか起きませんから、そこに描かれていない、真壁の幼少期のシチュエーションや、真壁家の家庭崩壊以前の幸せだった頃の思いをほうふつとさせるような歌詞にすれば、見ている人の心にぐっとくるんじゃないかなと考えました。その中で、最初に思い浮かんだのが、子どもが影踏みをして遊んでいるノスタルジックな情景でした。

-映画音楽と通常の楽曲製作は違うと思いますが、すんなり作れましたか。

山崎 主題歌と、登場人物になぞった劇伴4曲を同時進行で作っていましたが、ずーっとやっていました(笑)。どれぐらいの期間かは覚えていませんが、ギリギリまでやっていましたね。でも、ミュージシャンとして、劇伴をやらせてもらえることはありがたいです。やりがいがあって楽しいです。

-最後に、お二人の共演前後の印象を教えてください。

尾野 素顔は分からないけど、歌を歌ったり、役者もされたりしているから「曲者」と感じつつ、「関西の人だから面白いんでしょ?」と思っていました。でも、現場で会ったらすごく集中されていて、面白いことを一つも言わないから戸惑いました(笑)。今は違いますよ。クランクアップして一緒にお酒を飲んだり、こういう取材の場では面白いので、ほっとしました。

山崎 サバサバしていて、結構開けっ広げで意外でした。映画やドラマでは、影を背負っている役をやられているので、「何か持ってはんのかな…」と思っていたけど、『影踏み』なのに、影すらない感じでした(笑)。

(取材・文・写真/錦怜那)

(C)2019「影踏み」製作委員会

 映画『影踏み』は11月15日(金)からテアトル新宿ほか全国ロードショー。

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