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【インタビュー】『レディ・プレイヤー1』スティーブン・スピルバーグ監督「皆さんを、空想と希望のある世界にいざないたかった」

 ゴーグル一つで全ての夢が実現するVRワールド「オアシス」で繰り広げられるトレジャー・ハンティングの冒険を描いたスティーブン・スピルバーグ監督作『レディ・プレイヤー1』が、4月20日から公開される。13年ぶりに来日したスピルバーグ監督に話を聞いた。

スティーブン・スピルバーグ監督

-本作には、1980年代へのオマージュはもちろん、『シャイニング』(80)、『市民ケーン』(41)、『素晴らしき哉、人生!』(46)、そして三船敏郎と、監督自身がお好きな古い映画もたくさん引用されていました。80年代とこれらを混在させた理由は?

 まず、私は80年代が大好きなんです(笑)。アーネスト・クラインの原作は2041年が舞台でしたが、文化的には80年代が中心に描かれていました。そして、もしディストピア(反ユートピア)に陥ったら、人々は、一番安泰な時代に回帰したいという気持ちになると思いました。映画も、テレビも、音楽も、ファッションも含めて、文化が王様で、文化が素晴らしかった時代、非常に善良で穏やかだった時代に。
 個人的には、80年代には私に最初の子どもが生まれました。またアンブリン・エンターテインメントを設立した時代でもあります。そして恋をしました(笑)。ですから、私にとっても80年代はとても重要な意味を持っています。そうした思いが今回の原作とぴったり合ったのです。
 文化をリードするのはやはり映画だと思います。この映画に登場する古い映画は、80年代にインパクトを与えた映画群だと思います。でも『素晴らしき哉、人生!』の「友ある者は残敗者ではない」というせりふの引用を、分かってくれる人はほとんどいませんが…(笑)。

-監督は、実際にVRゲームをプレーしたことはあるのでしょうか。

 プレイステーションで「マリオ」などをやりました。最初にやったときはゴーグルを外したくありませんでした(笑)。ゴーグルを外したときの「何だ地球じゃないか」というがっかりする感じが嫌でしたね。VRでは、360度、全方向の体験ができたので、信じられないような世界だと思い、魅了されました

-もし監督が「オアシス」の中に入ったとしたら、どんなアバターを選ぶのでしょうか。

 私が一番好きなカートゥーンキャラクターのダフィー・ダックです。この映画を作っているときに、みんな自分のアバターを選びました。私の中にはダフィー・ダックが存在しています。羽根が欲しいんです(笑)。

-森崎ウィンを起用した理由と、彼の魅力についてお話ください。

 彼が笑うと、私も笑顔になれます。機嫌が悪いときでも、ウィンの笑顔を見るとすぐに気分がよくなってしまいます(笑)。それから、私には4人の娘がいますが、彼を起用すれば全員がこの映画を見てくれると思いました(笑)。彼はハンサムでカリスマ性もあるし、何よりいいやつなんです。ですから、たくさんの日本人の俳優の中から彼に決めました。

-以前「80年代はイノセントで楽観的な時代だった」と発言されていました。では、監督は、現代はどんな時代だと感じているのでしょうか。この映画のようなディストピアに向かっているとお思いでしょうか。

 この映画はあくまでフィクションです。ディストピアに向かっているとは思いません。ただ、今はとても好奇心が強く、シニシズム(冷笑的)な時代だと思います。80年代と比べると、人が人を信用しなくなっています。そして今のアメリカは思想的にも半分に分かれ、信頼や信用がなくなってきています。この映画を作りたかった大きな理由の一つは、そうしたシニシズムから逃げたかったから。皆さんを、空想と希望のある世界にいざないたかったのです。

-長い間映画を撮り続けている原動力は?

 いい質問ですが、自問するのは少し怖い気がします。もし答えがあったら、監督をするのを辞めてしまうかもしれません(笑)。本当に肉体が続く限り監督をしたいと思っています。私はとにかくストーリーを語ることが好きなのです。小さい頃、3人の妹に毎晩怖い話をしました。彼女たちが怖がって「きゃー」と言いながらベッドに入ると、それを聞いた父に「また怖い話をしたな。怖い話ではなく、いい話をしなさい」と怒られました。今、自分の子どもが7人いますが、四つある寝室を回って、それぞれ違う話をします。そんなふうに、私は常にストーリーを語っていたいのです。

-これまでさまざまなジャンルの作品を作ってこられましたが、監督作を決める基準はどこにあるのでしょうか。

 あまり意識はしていないと思います。潜在的なものでしょうか。例えば、この映画の編集をしているときに、『ペンタゴン・ペーパーズ』の台本を読みました。そして「これは現代にも通じる話じゃないか。まさに今の大統領が同じことをしている」と思い、語るべき義務を感じました。それが歴史的な物語を映画にするときの気持ちです。できれば、社会的な現実とSFの世界を行ったり来たりするのが理想です。ある意味、両極端ですね(笑)。
 歴史を扱う映画について言えば、その出来事の映像としてのイメージを作り出すことが好きです。私が学生だった頃、歴史を学ぶには、暗記したり、読んで覚えるしかありませんでした。でも、聞いたものよりも、見たものの方がインパクトは強いと思います。例えば、『アミスタッド』(97)、『プライベート・ライアン』(98)、『リンカーン』(12)、『ブリッジ・オブ・スパイ』(15)などは、公開後に、学校の教材として生徒たちが見ています。彼らも歴史を映像として見れば決して忘れないんですね。

-この映画の主人公もそうですが、ファンボーイ(オタク)は、どこかで大人にならなければならない時を迎えます。大人になるには自分の好きなものを捨てなければならないと思いますか。

 私もまだ大人になっていませんが、映画監督をしているので何とかなっています(笑)。この映画のような場合は、カメラの後ろからではなく観客の一員として撮っています。でも『ペンタゴン・ペーパーズ』のような映画を撮るときは、カメラの後ろで撮っています。歴史物のときは歴史の解釈者として、ちゃんと事実を確認しながらリサーチをします。でもこの映画の場合は、想像の世界ですから、歴史的な事実などは一切関係なく、とても開放感を覚えながら作っています。『ペンタゴン・ペーパーズ』は大人として作らなければならない映画ですが、今回は、子どもの心のままで作りました。だから無理に捨てる必要はないと思いますよ。

(取材・文・写真/田中雄二)

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