エンターテインメント・ウェブマガジン
『ダークナイト』『インセプション』『インターステラー』などを手掛けたクリストファー・ノーラン監督の最新作『ダンケルク』が9月9日(土)から全国ロードショー公開される。第2次世界大戦下、英仏連合軍のダンケルクからの撤退を描いた本作は、ノーラン監督にとっては、初めて実話を基に描いた戦争映画。陸海空と、それぞれ異なる時間軸の出来事を、一つの物語として同時進行させた視点が目を引く。そんな本作について、来日したノーラン監督に話を聞いた。
最も印象に残ったのは、兵士が入水自殺をしたかのように見えるシーンの基になった話です。実際に、あのシーンのように浜辺から海に向かって歩いていく人がいたらしいのです。それを見た人によれば「海峡を渡ってイギリスまで泳ぎ着くつもりだったのか、それともボートに乗るつもりだったのか、どうしてあんな行動を取ったのかは分からないが、あいつは確実に死ぬと思った」と言っていました。他にもたくさんの人からいろいろな話を聞き、それらを映画の中にちりばめました。彼らにお会いして話を聞けたことはとても有意義だったと思います。中には、話を聞いた後で亡くなった人もいますし、存命している90代の人もいます。今この映画を撮れて良かったと思います。
まず、あのチクタクという音は自分の懐中時計の音を録音して、それを作曲家のハンス・ジマーと効果音のデザイナーに渡しました。観客をずっと高いテンションのままで引っ張っていくには、いいベースになると考えたからです。それを基にして、ジマーが時計の音やリズムと一致するような素晴らしいミュージックトラックを作ってくれました。こうして緊迫感あふれる音楽が出来上がったわけですが、その狙いは「このストーリーにおける一番の敵は時間である」ということでした。今回は、これまでにないほど、音楽と音響効果と映像を緊密に融合させることができました。
大規模な映画になると、極限状態にいることを強いられるキャラクターを見せることで、観客を引き込むということが必要になります。また、その映画が描く世界観にはどういったリスクや条件、制限があるのか その中でキャラクターをどこまで追い込めるのかということをいつも考えています。ただ、この映画に関しては、今まで撮ってきた作品のような個人のヒロイズムではなく、集団のヒロイズムを描きたかったのです。極限に置かれた彼らと一緒に観客が“旅”をすることで、最後は集団のヒロイズムが成し遂げられるさまを見せたかったのです。
映画監督と映画との関わりは、作家と小説のそれとは違うと思います。作家の中には大衆小説は読んだことがないという人もいるでしょうが、映画監督の場合は、ハリウッドの大作は必ず通る道です。その後、より珍しい、多様な映画を見るようになるわけですが、ハリウッドの大作映画のすごさがずっと脳裏に焼きついています。ですから、心のどこかで究極の映画の形はハリウッドの大作映画だという思いがあります。ですから、僕が目指しているのも大きなスケールの物語で、自分が心血を注いで作れるようなものなのです。
映画監督はスペシャリストではないと思います。脚本、芝居、写真、映像技術について、どれも多少は知っているというゼネラリストであることが大事だと思います。スタンリー・キューブリックが「映画監督が映画を学ぶ最良の方法は、映画を作ることだ」と言っていました。つまり作り続けることが大切なのです。それ以外は、これという具体策はないと思います。
この題材は、ずっと前から撮りたいと思っていて、たまたま、今準備が整ったから撮ったという単純な理由です。ただ、この壮大なアクションを撮るには、監督としても熟練が必要になるのでこれだけ時間が掛かりました。題材を選ぶのは直感なので、これだからという理由は言えませんが、どうやら、時代が求めるものや、多くの人に訴え掛けられるものが作れているようなので、自分としてはとてもうれしいです。
(取材・文/田中雄二)
映画2025年12月5日
戦争がもたらす狂気を圧倒的なリアリティーで描き、第46回日本漫画家協会優秀賞を受賞した武田一義の戦争漫画をアニメーション映画化した『ペリリュー ―楽園のゲルニカ―』が12月5日から全国公開された。太平洋戦争末期、激戦が繰り広げられたペリリ … 続きを読む
舞台・ミュージカル2025年12月4日
YouTubeもNetflixもない時代、人々を夢中にさせた“物語り”の芸があった——。“たまたま”講談界に入った四代目・玉田玉秀斎(たまだ・ぎょくしゅうさい)が、知られざる一門の歴史物語をたどります。 2016年に四代目・玉田玉秀 … 続きを読む
ドラマ2025年12月1日
WOWOWで毎週(日)午後10時より放送・配信中の「連続ドラマW シャドウワーク」は、佐野広実の同名小説を原作にしたヒューマンミステリー。 主婦の紀子は、長年にわたる夫の暴力によって自己喪失し、すべて自分が悪いと考えるようになっていた。 … 続きを読む
ドラマ2025年12月1日
NHKで好評放送中の大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」。“江戸のメディア王”と呼ばれた“蔦重”こと蔦屋重三郎(横浜流星)の波乱万丈の生涯を描く物語は、まもなくクライマックスを迎える。これまで、いくどとなく視聴者を驚かせてきたが、第4 … 続きを読む
舞台・ミュージカル2025年11月30日
今期も三谷幸喜の「もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう」に出演するなどドラマや映画で注目を集め、舞台やさまざまなジャンルでも活躍する富田望生。その富田が、2026年1月10日から上演する舞台「世界の終りとハードボイルド・ワンダ … 続きを読む