【週末映画コラム】挑戦的で刺激的でもあるが癖が強い『エミリア・ペレス』/嫌悪感がこみ上げるが妙なエネルギーを感じさせる『悪い夏』

2025年3月21日 / 08:00

『悪い夏』(3月20日公開)

(C)2025映画「悪い夏」製作委員会

 市役所の生活福祉課に勤める佐々木守(北村匠海)は、同僚の宮田(伊藤万理華)から、職場の先輩の高野(毎熊克哉)が生活保護受給者の女性に肉体関係を強要しているらしいと聞かされる。

 面倒に思いながらも断り切れず真相究明を手伝うことになった佐々木は、その当事者である育児放棄寸前のシングルマザー・愛美(河合優実)のもとを訪れる。

 愛美は、高野との関係を否定するが、実は裏社会で暗躍する金本(窪田正孝)とその愛人の莉華(箭内夢菜)、手下の山田(竹原ピストル)と共に、ある犯罪計画に手を染めようとしていた。そうとは知らず、愛美に引かれる佐々木にとって悪夢のような夏が始まる。

 生活保護の不正受給問題を根底に、真面目に生きてきた気弱な公務員が転落していく姿を描いたクライムサスペンス。

 第37回横溝正史ミステリ大賞優秀賞を受賞した染井為人の同名小説を映画化。『アルプススタンドのはしの方』(20)や『ビリーバーズ』(22)などの城定秀夫監督がメガホンを取り、『ある男』(22)の向井康介が脚本を担当。

 前半の善意から愛美とその娘に肩入れしていく佐々木の様子は、停水執行を行う無気力な水道局員(生田斗真)がシングルマザーの娘と関わる中で再生していく姿を描いた『渇水』(23)とよく似ているが、一転、後半のだまされたと知って落ちていく佐々木の姿は正反対。だんだんと精気が失われ目が死んでいく、闇落ちした佐々木=北村が印象に残る。

 この映画のキャッチフレーズは「クズとワルしか出てこない狂乱サスペンス・エンターテインメント」。それが最も端的に表現されたのが、ラスト近くでボロアパートの一室に勢ぞろいした面々がすったもんだを繰り広げるカオスシーンだ。まさに悲劇と喜劇が表裏一体となって押し寄せ、当事者にとっては悲劇だが、第三者から見ると喜劇であるという矛盾の本質をついていて面白い。

 見ながら嫌悪感がこみ上げ、登場人物の誰にも共感できないが、妙なエネルギーを感じさせる映画になっている。

(田中雄二)

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