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『九十歳。何がめでたい』(6月21日公開)
数々の文学賞を受賞してきた作家の佐藤愛子(草笛光子)は、90歳を過ぎた現在は断筆宣言をして人付き合いも減り、鬱々(うつうつ)とした日々を過ごしていた。
そんな彼女のもとに、中年のさえない編集者の吉川(唐沢寿明)が、エッセーの執筆依頼を持ち込んでくる。世の中への怒りを歯に衣着せぬ物言いでつづった愛子のエッセーは大反響を呼び、彼女の人生は90歳にして大きく変わり始める。
佐藤愛子のベストセラーエッセー集を基に、前田哲監督が映画化した「草笛光子生誕90年記念映画」。脚本は大島里美。愛子の娘・響子を真矢ミキ、孫の桃子を藤間爽子、吉川の妻・麻里子を木村多江、娘の美優を中島瑠菜が演じた。
前田監督と草笛は『老後の資金がありません!』(21)のしゅうとめ役でもコンビを組んだ。この映画はその延長線上にあると言ってもいいが、とにかく草笛が素晴らしい。老いてなお美しい容姿、滑舌のいいせりふ回し、主役を張れる存在感…。また、その草笛と見事に渡り合った唐沢の好演も目立つ。2人の掛け合いから、作家と編集者の関係も面白く描かれている。
前田監督は、前作『水は海に向かって流れる』(23)のインタビューの際に、「一人一人が幸せに暮らせるようにと思って映画を撮っている」「人が幸せに生きるとはどういうことか」「人はみんな自分を励まして生きている」「ユーモアや笑いってすごい力があると思う。眉間にしわを寄せて生きるよりも、いつもにこやかに生きている方がいい」などと印象的な言葉を語っていたが、この映画にもそれらの言葉が当てはまる。
(田中雄二)