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『蟻の王』(11月10日公開)
1960年代のイタリア。ポー川南部の街ピアチェンツァに住む詩人兼劇作家で蟻の生態研究者でもあるアルド・ブライバンティ(ルイジ・ロ・カーショ)は、教え子の青年エットレ(レオナルド・マルテーゼ)と恋に落ち、ローマで一緒に暮らしはじめる。
しかし2人はエットレの家族によって引き離される。アルドは教唆罪で逮捕され、エットレは同性愛の「治療」と称した電気ショックを受けるため矯正施設へ送られる。
世間の好奇の目にさらされる中で裁判が始まり、新聞記者のエンニオ(エリオ・ジェルマーノ)は熱心に取材を重ね、不寛容な社会に一石を投じようとするが…。
イタリアの名匠ジャンニ・アメリオ監督が、同性愛の許されない時代に恋に落ちた詩人と青年をめぐる「ブライバンティ事件」の実話を基に描く。
「わが国に同性愛者はいない。故に法律もない」というムッソリーニの言葉の引用や、「同性愛者の行き着く先は2つしかない、治療をするか自殺をするかだ」というセリフもあったが、1960年代のイタリアは、同性愛者に対しては恐ろしく不寛容な国であり、その奥には宗教やファシズムの問題が内在していたことを知らされた。
ところで、アルドを断罪して裁判に持ち込むエットレの母と兄の行動は、いささか異常な感じもするが、アルドはエットレの兄とも関係があり、結果的に兄から弟に乗り換えたのだから、母と兄が怒るのも無理はない。
また、狷介(けんかい)なアルドの行動も決して褒められたものではなく、何やら今のジャニーズ問題とも重なって見えるところもあり、宣伝文句のように、美しい純愛悲恋ものとしては見られなかった。まあこの手の話は、結局はどちらの側から見るかなのだが…。
(田中雄二)