X


香港映画の光と影が浮かび上がる『カンフースタントマン 龍虎武師』/“家族”を追い求める人々の姿を描く『ファミリア』【映画コラム】

『カンフースタントマン 龍虎武師』(1月6日公開)

(C)ACME Image (Beijing) Film Cultural Co., Ltd

 香港映画界が生み出した数々のアクション作品を支えたスタントマンと、彼らが活躍した時代を振り返るドキュメンタリー映画。

 1970年代から90年代にかけて、カンフーアクションからポリスアクション、香港ノワール、そして時代劇など、数多くのアクション映画を生み出し、世界中の映画界に大きな影響を与えた香港映画。

 膨大な数の作品群を支えたのは、危険も顧みず、武闘、格闘、落下、爆発、衝突といった、すさまじいアクションシーンで代役を務めた武師(スタントマン)たちの存在だった。

 この映画で、証言をするのは、武師たちのほか、武術指導者でもあるサモ・ハン、ドニー・イェン、そして『帰って来たドラゴン』(74)で倉田保昭と死闘を繰り広げた懐かしのブルース・リャン、また、監督のユエン・ウーピン、ツイ・ハーク、アンドリュー・ラウら。

 『ドラゴン怒りの鉄拳』(72)『ドラゴンへの道』(72)『ドラゴンロード』(82)『プロジェクトA』(83)『ファースト・ミッション』(85)『イースタン・コンドル』(87)などの本編シーンや、メーキングなどのアーカイブ映像を交えながら、彼らの仕事ぶりを紹介し、「ブルース・リーが香港映画のアクションに革命を起こした」「ジャッキー・チェンのアクションコメディーがトレンドになった」といった、現場の声も披露する。

 だが、「サモ・ハンが『やれ』と言うんだからやるしかない」「あいつは8階から落ちたから、俺は9階から落ちてやる」といった、武師たちの心意気はあっぱれだが、「金はかなりもうかったが、全て酒と賭けに消えた」というような、「宵越しの銭は持たない」的な生き方が、本土返還後、香港映画が衰退した今となっては寂しさを感じさせる。

 彼らは高齢化と後継者不足にも悩まされているし、製作会社のゴールデン・ハーベストやショウ・ブラザーズも、今は様変わりしているのだ。

 この映画がユニークなのは、「昔はよかった」と、過去の栄光を懐かしむばかりではなく、現在と未来が抱える問題をきちんと見つめている点だろう。そこから、香港映画の光と影が浮かび上がってくるところがある。

 「中国本土には優れたカンフーマスターはたくさんいるが、スターはいない」という言葉に、彼らの誇りがにじむ。

『ファミリア』(1月6日公開)

(C)2022「ファミリア」製作委員会

 山里で孤独に暮らす陶器職人の神谷誠治(役所広司)の下に、一流企業のプラントエンジニアとしてアルジェリアに赴任している息子の学(吉沢亮)が、婚約者のナディアを連れて帰ってきた。学は結婚を機に退職して焼き物を継ぎたいと話すが、誠治は「とても食べていけない」と反対する。

 一方、隣町の団地に住む在日ブラジル人の青年マルコスは、半グレ集団に追われていたところを助けてくれた誠治に、亡き父の面影を重ね、焼き物の仕事に興味を持つようになる。そんな中、アルジェリアに戻った学とナディアを悲劇が襲う。

 脚本・いながききよたか、監督・成島出によるヒューマンドラマ。

 施設出身で、妻を亡くし、一人で暮らす誠治、難民だった女性を妻にするその息子、誠治と同じく施設出身で、間もなく定年を迎える刑事(佐藤浩市)、ブラジル人が起こした事故で家族を失い、ブラジル人を憎む半グレの男(MIYAVI)、居場所が見つからない在日ブラジル人たち…。形も国籍も境遇も違うが、彼らが追い求めているものは“家族”であり、人とのつながりだ。

 ただ、残念ながら、移民、難民、差別、独居、暴力、恋愛、人質…と、いろいろと盛り込み過ぎて話の焦点が定まらないところがある。時折、いい場面もあるのだが、それも散発的で持続しない。全体的にバラバラな印象を受け、バランスの悪さを感じさせられる。

 父親役の役所はもちろん、出来のいい息子役で吉沢も好演を見せるだけに、とても惜しい気がした。

(田中雄二)