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【映画コラム】今年のアカデミー賞の大本命!『ラ・ラ・ランド』

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 第89回アカデミー賞で、作品賞、主演男優賞、主演女優賞、監督賞など主要部門を含む13部門で14ノミネートされたミュージカル映画『ラ・ラ・ランド』が公開された。

 偶然出会った女優志望のミア(エマ・ストーン)と売れないジャズピアニストのセブ(ライアン・ゴズリング)の恋愛模様をミュージカル仕立てでつづったのは『セッション』(14)のデイミアン・チャゼル監督だ。

 チャゼル監督は、全編にジャズやミュージカルへの愛をあふれさせ、『ロック・オブ・エイジズ』(12)やテレビドラマ「glee/グリー」のような、懐かしさと新しさが混在するミュージカル映画を作り出した。

 ちなみに、エマとライアンは『ラブ・アゲイン』(11)『L.A. ギャング ストーリー』(13)に続く3度目の共演となったが、今回のエマは特にキュートに見える。

 ところで、本作はオリジナルではあるのだが、『ウエスト・サイド物語』(61)を思わせる高速道路での見事な群舞に始まり、往年の名コンビ、フレッド・アステア&ジンジャー・ロジャースを連想させる歌とダンスから、ウディ・アレンの『世界中がアイ・ラブ・ユー』(96)や、仏のジャック・ドゥミの『シェルブールの雨傘』(64)『ロシュフォールの恋人たち』(67)の要素までを取り込み、ミュージカル映画の魅力を多角的に見せてくれるので、その楽しさを存分に味わうことができる。

 それ故、ロサンゼルスの愛称であり、気分が高揚する状況や“夢の国”の意味もある映画のタイトルが、そのまま観客の気持ちを表わす言葉となる。グリフィス天文台、ハモサ・ピアーなどハリウッド周辺の名所巡り的な一面も本作の重要なポイントだ。

 また、ドラマ部分では、四季をあまり感じさせないロスで、2人の恋を四季に分けて描くという斬新な手法を用いながら、三度映画化された『スタア誕生』(37、54、76)のように、才能、運、妥協、すれ違いといったアーティスト同士の悲しい性(さが)を浮き彫りにしていく。やがて訪れる何とも切ないエピローグがあまりに見事で、見ている間に思わず泣けてきた。さてさて、アカデミー賞の結果やいかに…。(田中雄二)