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一方、NHK総合で毎週金曜午後10時放送中の「透明なゆりかご」は、町の小さな産婦人科を舞台に、妊娠や中絶といった出産をめぐる光と影に向き合った物語。第4回「産科危機」(8月10日放送)では、出産直後に妊婦が死亡した事件をめぐり、医師や看護師、残された夫が葛藤するさまが、繊細なタッチで描かれた。
原作は沖田×華の『透明なゆりかご 産婦人科医院看護師見習い日記』。ギャグ漫画を思わせるシンプルな絵ながら、看護助手のアルバイトをしていた作者自身の経験に基づき、生命と真摯(しんし)に向き合った物語は心に深く残る。
独特の雰囲気が持ち味の作品だけに、ドラマ化に当たっては、そのテイストをいかに実写で再現するかに腐心したはず。だが、主演の清原果耶以下、瀬戸康史、原田美枝子、水川あさみら、俳優陣の人間味豊かな演技、巧みな脚本、繊細で柔らかな映像と音楽により、原作同様の温かさにあふれた作品となっている。
生活保護や妊娠・出産の問題は、今日的なテーマであるにもかかわらず、当事者以外には理解されにくく、逆に関心があっても、第三者が当事者に深い話を聞くことは難しい。その点、この2作品はテレビドラマという形を取ることで、それらの問題を広く世間に知らしめる好機となった。その裏にはもちろん、入念なリサーチに基づいて描かれた原作の存在がある。そう考えると、改めて日本の漫画文化の懐の深さを思い知らされる。
これらの問題に少しでも関心がある人には、ぜひドラマを見ることをお薦めしたい。さらに、ドラマを見て興味が湧けば、原作にも手を伸ばしてみてほしい。原作もドラマも優れた作品であり、双方に触れることで、それぞれの魅力がより引き立つと考えるからだ。(井上健一)