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NHKで好評放送中の大河ドラマ「光る君へ」。6月30日に放送された第二十六回「いけにえの姫」では、娘・彰子の入内を迫られる藤原道長(柄本佑)と、夫・藤原宣孝(佐々木蔵之介)との関係に悩む主人公まひろ(吉高由里子)の姿が描かれた。
大水や地震など、続発する天変地異から都を守り、世に安寧をもたらすため、安倍晴明(ユースケ・サンタマリア)から娘・彰子(見上愛)の入内を迫られる道長。姉・詮子(吉田羊)の「道長もついに血を流す時が来たということよ」との言葉も後押しとなり、やむなく彰子の入内を決意する。
一方のまひろは、自分の送った手紙を宣孝が持ち歩き、人に見せびらかしていると聞いて激怒。これをきっかけに夫婦の間にひびが入り、疎遠になってしまう。
そんなまひろに、幼い頃から成長を見守ってきたいと(信川清順)は「ご自分をお通しになるのもご立派ですけれど、殿様のお気持ちも少しは思いやって差し上げないと」「思いをいただくばかり、己を貫くばかりでは、誰とも寄り添えませぬ」と諭す。
確かに、個人的な手紙を他人に見せる宣孝のデリカシーのなさは、いかがなものかと思う。普通の人であれば激怒して当然だろう。とはいえ…と立ち止まって考えてみると、いとの言葉が響いてくる。
余談かもしれないが、宣孝の名誉のために一つ言っておくと、この回前半、大水の被害報告を受けた道長が、対策について「山城守に伝えよ」と命じている。その山城守が宣孝なので、ただの女好きではなく、一応、仕事はしているようだ。その実態については、劇中で描かれていないのでよくわからないが…。
話を道長に戻すと、彰子の入内の件について相談された妻の倫子(黒木華)は「入内して幸せな姫なぞおらぬと、いつもおおせでしたのに」と猛反対。ところが、倫子からその話を聞いた母・穆子(石野真子)は、「入内したら、不幸せになると決まったものでもないわよ」、「何がどうなるかは、やってみなければわからないわよ」と娘を諭す。(穆子がこう語ったのは、亡き夫・源雅信(益岡徹)が左大臣で、その苦労を知っていたからかもしれない。)
最終的に倫子は「殿の栄華のためではなく、帝と内裏を清めるため、なのでございますね」と道長に念押しした後、「内裏に彰子のあでやかな後宮を作りましょう」と覚悟を決める。
世の安寧のため、本意ではない娘の入内を決意する道長。真っすぐなだけでは生きられない人の世の複雑さを思い知らされた。と同時に、これまで道長がまっすぐに生きてきたからこそ、それを苦渋の決断として、見る側も受け入れることができたのではないだろうか。その点に関しては、「私は父に裏切られ、帝の寵愛を失い、息子を中宮に奪われ、兄上に内裏を追われ、失い尽くしながら生きてきた」という詮子の言葉も重く、印象に残る。(第1回、入内前のまだピュアだった頃の詮子を思い出してほしい。)
ひるがえって、いとから「己を貫くばかりでは、誰とも寄り添えませぬ」と諭されたまひろは、宣孝とどう向き合うのだろうか。そして、「これはいけにえだ」とまで道長に言わしめた入内を受け入れた彰子は、これからどんな人生を歩んでいくのだろうか。
程度の差こそあれ、「自分を貫く」ことに迷う点では、この回のまひろと道長は共通していた。いずれまひろと彰子が出会うことも併せて考えると、この辺のドラマの組み立て方のうまさには舌を巻くばかり。まひろと道長の再会で幕を閉じたこの回、一週休みを挟んで迎える次回が待ち遠しい。
(井上健一)