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そしてもう一人、この回で忘れてはならないのが、家康と秀吉を翻弄(ほんろう)する茶々役の北川景子の存在だ。茶々の母・お市と一人二役のキャスティングには驚いたが、両者を的確に演じ分ける北川の芝居には、役者としての力量を思い知らされた。
その真価が発揮されたのが、茶々が家康の下を訪れた際のやり取りだ。母・お市の思い出から話を切り出し、かつて親しかった2人の関係を家康の脳裏によみがえらせると、その心の隙を突き、「茶々は、あなた様に守っていただきとうございます」とすがりつく。これに思わず、「もちろん、お守りいたします」と答えてしまう家康。
この後、家康が秀吉に「あのお方は、どこか計り知れぬところがございます。人の心に、いつの間にか入り込むような…」と語る場面があるが、北川の芝居はそのせりふを見事に引き立てていた。それは、お市と茶々を共に北川が演じたからこそ、両者の面影が重なって生まれた説得力といえよう。これもまた、別の意味で役の厚みを感じる名演だった。
これまでも書いてきたことだが、1人の役者が長く演じることで生まれる役の厚みと説得力は、大河ドラマの大きな魅力となっている。それは当然、前半よりも後半になって発揮されてくるものだ。この3人に限らず、これから終盤にかけて、これまで役を積み重ねてきた俳優たちの名演が、さらに見られるに違いない。ドラマの行方が気になると共に、そんな期待も高まる第38回だった。
(井上健一)