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「鎌倉殿の13人」第37回「オンベレブンビンバ」義時と時政、対立の裏に隠れた家族のドラマ【大河ドラマコラム】

 「逆です。父上は、このくわだてがうまくいかないことを見越しておられる。りく殿の言う通りにすれば、必ず行き詰まる。しかし、父上はあえてその道を選ばれた」

  NHKで放送中の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」。9月25日放送の第37回「オンベレブンビンバ」では、いわゆる「牧氏の変」が描かれた。

北条時政役の坂東彌十郎(左)と北条義時役の小栗旬 (C)NHK

 畠山重忠(中川大志)の乱をきっかけに、主人公・北条義時(小栗旬)から政治の実権を奪われた父の時政(坂東彌十郎)は、妻のりく(宮沢りえ)と共謀し、3代将軍・源実朝(柿澤勇人)を廃して娘婿の平賀朝雅(山中崇)の擁立を計画。御家人同士が権力闘争を繰り広げてきた物語は、ついに北条親子の対立にまで発展した。

 と書くと、普通なら凄惨(せいさん)な骨肉の争いが繰り広げられてもおかしくないところ。だがこの回では、計画の決行を控えた時政が、突然、義時や政子(小池栄子)たちの前に現れ、娘の実衣(宮澤エマ)や息子の時房(瀬戸康史)も交え、久しぶりに家族そろって宴会を繰り広げる一幕が見られた。そこには、緊迫する事態とは裏腹の和やかムードが漂っていた。

 そこで謎のサブタイトル「オンベレブンビンバ」の正体も判明。実は、第21回で北条一族が勢ぞろいした際、政子の亡き娘・大姫(南沙良)が時政に教えた“元気になるおまじない”「オンタラクーソワカ」を勘違いしたものだった。

 「オンベレブンビンバー」とご機嫌に唱える時政の間違いを指摘し、正解を全員で思い出そうとする様子は、ここ最近の緊張した関係を忘れさせ、かつての仲のよかった北条家を思い出させた。

 このひと時の一家だんらんを経て、その夜決行された時政の計画。それを知った義時の口から飛び出したのが、冒頭に引用した言葉だった。

 これは、昼間の宴会が、計画を控えた時政が別れを告げに来たものだと気付き、「ことと次第によっては、私たちを殺すつもりなのではないかしら」と心配する政子に向けて発せられたものだ。

 一同が時政の真意を測りかねる中、義時だけは父の悲壮な覚悟を見抜くと同時に、その口調からは父を思う気持ちまでもがにじんでいた。

 “鎌倉のため”という大義を巡って対立した時政・義時親子だが、一旦、公の場を離れれば、決して仲が悪いわけではなく、互いを知り尽くし、思いやる心も持っている。「権力闘争」という血なまぐさい言葉のベールをはぎ取ってみれば、その下に見えてくるのはどこにでもありそうな家族のドラマだ。

 脚本の三谷幸喜が、かつて「サザエさん」を引き合いに出したのも、あながち間違いではなかったと思えてくる。極論かもしれないが、義時と時政の対立は「親子げんか」といってもいいかもしれない。

 緊迫の度合いを増す物語とは裏腹に、ここまで36回の物語を積み重ねてきた2人の関係には、そう思わせるだけの濃密さとぬくもりがあった。それが、対立せざるを得ない現在の立場とのギャップを際立たせ、親子が引き裂かれていく切なさを浮き彫りにする。

 一見、権力闘争を描きながらも、その裏に隠れているのはあくまでも家族のドラマ。そのことを再認識させてくれたこの回は、時政が実朝に出家を迫る場面で幕を閉じた。

 果たして時政の運命はどうなるのか。時政を謀反人として討ち取ろうとする義時は、事態収拾のためにどんな決断を下すのか。「時を継ぐ者」と題された次回の放送を静かに待つばかりだ。

(井上健一)

北条義時役の小栗旬 (C)NHK