「鎌倉殿の13人」第36回「武士の鑑」権力を持て余す北条時政の行く末は?【大河ドラマコラム】

2022年9月23日 / 08:03

 「政を正しく導くことのできぬ者が、上に立つ。あってはならないことです」

 これは、9月18日に放送されたNHKの大河ドラマ「鎌倉殿の13人」第36回「武士の鑑」で、主人公・北条義時(小栗旬)が語った言葉だ。この回は、歴史上有名な「畠山重忠の乱」が描かれ、鎌倉幕府を支えてきた御家人・畠山重忠(中川大志)が激戦の末、悲運の最期を迎えた。

「鎌倉殿の13人」第36回から (C)NHK

 その裏で義時は、畠山に“謀反人”の濡れ衣を着せて御家人たちに討伐を命じた父・時政(坂東彌十郎)の排除をひそかに画策する。冒頭に引用した言葉は、義時がその覚悟を姉・政子(小池栄子)に打ち明けた時のものだ。

 義時の言葉通り、独断で畠山討伐を命じただけでなく、付け届けを持参した御家人たちに訴訟の便宜を図り、比企一族滅亡後は武蔵国をわが物にしようとするなど、執権となった時政はやりたい放題。とても為政者にふさわしいとは思えない。その点は義時に同意する。

 だが、時政が悪意や野心に満ちているのかというと、そうではないだろう。本作の時政は一貫して“単純で思慮の浅いところはあるが、家族を愛する気のいいおやじ”として描かれており、執権になってそれが裏目に出ただけに思える。

 第34回、御家人たちから付け届けを受け取ったことを義時にとがめられた際、「分かってねえな。俺を頼ってくるその気持ちに、わしは応えてやりてえんだ」と反論した場面などは、いかにも時政らしい。

 激動の時代、息子の義時が真っすぐな若者から清濁併せ飲む政治家へと変貌してきたのに対し、北条家を取り巻く環境が激変しながらも、時政は伊豆の小さな豪族だった頃から基本的に変わっていない。

 それが突然、執権という権力を手に入れたことで、暴走につながった。むしろ、執権の座に就いたことは、時政にとっては不幸だったのかもしれない。

 この回、戦で討ち取られた重忠の首おけを持参した義時から「執権を続けていくのであれば、あなたは見るべきだ!」と迫られた際は、逃げるようにその場を去り、時政の覚悟のなさが露呈した。

 とはいえ、その欠点こそが時政の人間的魅力でもあり、見ているこちらとしては、突き放すことができないのも事実。時にはその暴走ぶりを、わが身に置き換えて考えることもある。果たして自分が時政のように、持て余すほどの力を手にしたとき、正しく振る舞うことができるだろうか。

 この「鎌倉殿の13人」の時政は、源頼朝(大泉洋)に出会いさえしなければ、そして権力さえ手にしなければ、伊豆で子や孫に囲まれて穏やかに幸せな人生を送っていたのかもしれない。

 それこそ、脚本の三谷幸喜が当初、例え話として挙げていた「サザエさん」の波平のように。ことあるごとに時政をたきつける妻・りく(宮沢りえ)との関係にしても、状況が違えば“愛妻家”と受け止められていたはずだ。

 
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