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これに加えて、本作では、すでに肉親同士が命を奪い合う“骨肉の争い”が何度か繰り返されていることも思い出しておきたい。第1回で娘・八重(新垣結衣)の幼い息子・千鶴丸(つまり孫)の殺害を指示した祐親の非情さは際立っているが、その祐親に嫡男の座を追われた工藤祐経(坪倉由幸)も、第2回で祐親の暗殺を試みて失敗している。
この回でも、石橋山での敗戦後、時政が「頼朝の首持って行きゃあ、何とかなるんじゃねえのかな」と、娘婿の頼朝を犠牲にして大庭に投降する話を一度は義時に持ち掛けている。
「戦の過酷さ」と、肉親でも油断できない緊張感。これにより、今までどことなくほのぼのとしていたムードが、ぐっと引き締まった。そしてそれは、前回のコラムで書いた「現代語を多用したせりふ」とはまた違った意味で、現代を生きる私たちには理解しづらい当時の武士たちが生きていた世界を、臨場感とともに伝えてくれるものでもあった。
そんな世界に生きる義時は、源平合戦を戦い抜き、権力闘争を勝ち残り、いずれは鎌倉幕府の頂点に上り詰めることになる。だが、「戦の過酷さ」をこれほどシビアに描いた本作が、その過程を当たり前のサクセスストーリーに仕上げるはずはない。きっと今までにない物語を見せてくれるはず。そんな新たな期待も芽生えた第5回だった。
(井上健一)