【大河ドラマコラム】「青天を衝け」第十六回「恩人暗殺」平岡円四郎を輝かせた鮮やかな脚本と堤真一の名演

2021年6月1日 / 16:22

 5月30日に放送されたNHKの大河ドラマ「青天を衝け」第十六回「恩人暗殺」では、主人公・渋沢栄一(篤太夫/吉沢亮)を主君・徳川慶喜(草なぎ剛)に引き合わせた恩人・平岡円四郎(堤真一)が刺客の襲撃を受け、非業の死を遂げた。

 雨の雨の中で繰り広げられた壮絶な暗殺シーンと、その亡きがらと対面して涙を流す慶喜役、草なぎの入魂の演技に心打たれた視聴者は多く、Twitterのトレンドでも上位に入るなど話題を集めた。もちろん、筆者もその一人だ。

渋沢栄一役の吉沢亮(左)と平岡円四郎役の堤真一

 今回、本コラムを書くに当たっては、やはり円四郎にフォーカスするべきと考え、その活躍を振り返ってみた。だが実は、思った以上に難しいことに気付いた。

 言うまでもなく、ご飯をてんこ盛りにした初対面以来の慶喜との主従の絆や、妻・やす(木村佳乃)との夫婦愛あふれるやり取りの数々など、名場面は幾つもある。だが、それらを挙げるだけでは、円四郎の魅力の本質には届かない気がしたのだ。

 かといって、自らの意思で行動する栄一や慶喜とは違い、慶喜の指示に従って行動する、あるいは栄一に指示を出す、という中間管理職的な立場の円四郎には、物語の行方を左右するような派手な活躍も見られない。

 にもかかわらず、これほど視聴者の心を動かすキャラクターになったのはなぜか。しばらく考えて達したのは、その理由が大森美香の脚本と堤真一の名演にあるのではないか、という当たり前過ぎる結論だった。

 その一例として、第十五回「篤太夫、薩摩潜入」で、栄一に薩摩藩潜入を命じる場面を振り返ってみたい。ここで円四郎は、次のように指示を出す。

 「ご公儀は今、天子様のお膝元の摂海を異国の船から守らねばならぬ。そこで台場を築くことになり、海岸防備に詳しいという評判の折田要蔵という者が、お台場築造掛に抜てきされた。折田要蔵は、薩摩人だ。おまえにその折田を調べてほしい」

 これは、ドラマの目的を説明する、いわゆる“説明せりふ”だ。この後もしばらく栄一とのやり取りの中で説明が続くが、ひとしきり済んだところで場面が終わっても物語上は支障ない。ところが、栄一が「薩摩の腹の内を知るは、至極大事な務めであると存じます」と任務を了承した後、円四郎から次の一言が飛び出す。

 「向こうはなんかありゃあ、もう即斬っちまうような、血の気の多い薩摩隼人だ。ひょっとすると、やられちまうかもしんねえがよ…」

 これが「いえいえ、そうやすやすとはやられません!」と応じる栄一とのさらなるやり取りを生み、単なる状況説明だったものが、円四郎の江戸っ子らしさを引き出す軽妙な場面に早変わりする。筆者を含め、この急展開に思わず笑みがこぼれた視聴者も少なくないはずだ。

 単なる説明役にとどまらず、人間味を感じさせる鮮やかな脚本と、シリアスからコメディー調まで変幻自在にこなす堤の名演。このふたつがそろったからこそ、平岡円四郎という人物がこれほど生き生きと輝き、その丁寧な描写の積み重ねが、第十六回の盛り上がりにつながったのではないだろうか。まさに「神は細部に宿る」だ。

 
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