【コラム 2016年注目の俳優たち】 第12回 小日向文世 大河ドラマで演じてきた“最期の時” 「真田丸」

2016年8月2日 / 15:06
豊臣秀吉を演じた小日向文世

豊臣秀吉を演じた小日向文世

 本格的な登場となった第14回「大坂」以来、天下人としての底知れない恐ろしさを見せつけてきた豊臣秀吉。ここにきて急激に衰え、同じことを繰り返す、居並ぶ大名たちの前で失禁するなど、すさまじい姿を披露している。

 そんな秀吉に遂に最期の時が訪れる。秀吉役が好評の小日向文世は「真田丸」が六度目の大河ドラマ出演となるが、これまでも何度か印象に残る死の場面を演じてきた。ここでは秀吉の最期を占う意味で、それらを振り返ってみたい。

 まずは2007年の「風林火山」で演じた諏訪家当主・諏訪頼重。戦国の騒乱の中で、姻戚関係にある武田家と敵対。戦に敗れて降伏した後、義兄・武田晴信(後の信玄:市川亀治郎)から腹を切るよう詰め寄られ、晴信の妹との間に生まれた息子の将来を案じつつ、自害する。

 力のこもった熱演が、武士らしい潔さを強く印象付けた。この時、最後に頼重と対面したのが、内野聖陽演じる主人公の山本勘助。言うまでもなく、この2人は「真田丸」で秀吉と徳川家康という立場で再び顔を合わせている。また、頼重の娘・由布姫(柴本幸)は、勘助に命を救われて晴信の側室となり、武田家の跡継ぎ・勝頼を生むという物語のヒロイン的存在だった。

 続いては、12年の「平清盛」で演じた源為義。平氏と双璧を成す武家の棟梁でありながら、勢力を広げる平氏の陰に隠れた不遇の身。同格であるはずの平氏の棟梁・平忠盛(中井貴一)の風格と威厳あるたたずまいと比較した時の小物ぶりや辛気臭さが、源氏の没落を物語っていた。

 その最期は、朝廷の権力争いに端を発した保元の乱での敗戦。源氏、平氏共に身内が敵味方に分かれたこの戦いに敗れた為義には、死罪の処分が下される。その刑の執行を命じられたのは、息子の義朝(玉木宏)。ところが、剣を振り下ろすことができず泣きじゃくる義朝に、父として優しく「泣くでない」と声を掛ける。その直後、そばに控えていた義朝の家臣の刃に倒れる…。

 源氏の復権を果たせなかったふがいない棟梁というそれまでのイメージを払拭(ふっしょく)し、自分の命よりも息子を思いやる父としての姿が胸を打つ名場面だった。

 わが子を思いつつ、志半ばで命を落とすという境遇には相通じるものがありながらも、二つの作品で見せた姿は大きく異なる。秀吉も同様に、息子・秀頼の将来を案じながら最期を迎えることが予想される。その時、われわれが目にするのはどんな姿だろうか。

 「真田丸」で55作目となる大河ドラマに、秀吉はこれまで18回登場し、緒方拳や勝新太郎、竹中直人ら15人の俳優が演じてきた。小日向・秀吉も、それらの名優たちと並んで、大河ドラマ史上に残る名演と言われることは間違いないだろう。「人生の無常を表現できたら」と語る小日向が、その締めくくりとなる秀吉の死をどのように演じるのか。有終の美を期待しつつ見守りたい。

 (ライター:井上健一):映画を中心に、雑誌やムック、WEBなどでインタビュー、解説記事などを執筆。共著『現代映画用語事典』(キネマ旬報社)


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