SFとファンタジーを通して、家族の形や生と死について描いた『アフター・ヤン』『天間荘の三姉妹』【映画コラム】

2022年10月21日 / 11:29

『アフター・ヤン』(10月21日公開)

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 “テクノ”と呼ばれる精巧な家庭用ロボットが一般家庭にまで普及した近未来。茶葉の販売店を営むジェイク(コリン・ファレル)と黒人の妻カイラ(ジョディ・ターナー・スミス)、中国系の養女のミカは幸せな毎日を過ごしていたが、ロボットのヤン(ジャスティン・H・ミン)が故障して動かなくなり、ヤンを兄のように慕っていたミカは落ち込んでしまう。

 ジェイクは、ヤンの修理の方法を模索する中で、彼の体内に毎日数秒間の動画を撮影できる装置が組み込まれていることを知る。そこには家族に向けられたヤンの温かいまなざしと、ヤンが巡り合った謎の若い女性(ヘイリー・ルー・リチャードソン)の姿が記録されていた。

 コゴナダが監督・脚本を手掛け、アレクサンダー・ワインスタインの短編小説『Saying Goodbye to Yang』を独創的な映像表現で映画化したSFドラマ。テーマ曲を坂本龍一が担当している。

 コゴナダは、韓国系アメリカ人の映像作家。アルフレッド・ヒッチコックや小津安二郎についてのドキュメンタリーや論文を手掛け、小津作品で脚本を執筆した野田高悟(ノダ・コウゴ)にちなんでコゴナダを名乗る。長編デビュー作『コロンバス』(17)が、サンダンス国際映画祭で公開されて注目された。

 この映画は、よくいえば静かで美しいのだが、ゆったりとしたテンポと、画面の暗さも手伝って、正直なところ、時折睡魔に襲われた。テーマは、家族の形、生命、記憶、アジア人のアイデンティティーの模索といったところか。

 アンドロイドについて、主人公が探偵をしていくところは『ブレードランナー』(82)、ミディアムショットやカメラの切り返しの多用は、確かに小津映画の影響を感じさせる。

 不思議な雰囲気のある映画で、アメリカでは「まるで小津安二郎がSF映画を作ったかのような味わい」と評する向きもあるという。なるほど、面白い捉え方だと思った。エキセントリックな役を演じることが多いファレルの“静かな演技”も見どころだ。

 
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