SFとファンタジーを通して、家族の形や生と死について描いた『アフター・ヤン』『天間荘の三姉妹』【映画コラム】

2022年10月21日 / 11:29

『天間荘の三姉妹』(10月28日公開)

(C)2022 高橋ツトム/集英社/天間荘製作委員会

 天界と地上の間にある街・三ツ瀬の老舗旅館「天間荘」に、交通事故で臨死状態となった小川たまえ(のん)がやって来る。たまえは、旅館を切り盛りするのぞみ(大島優子)とイルカトレーナーのかなえ(門脇麦)の腹違いの妹で、現世へ戻って生きるか、天界へ旅立つか、魂の決断ができるまで天間荘で過ごすことになるのだが…。

 漫画家・高橋ツトムの代表作『スカイハイ』のスピンオフ作品を、北村龍平監督が実写映画化。2時間半の大作である。

 この映画の根底にあるのは東日本大震災の惨禍だ。三ツ瀬の住人の大半は、震災によって、思いがけず、突然命を落とした人たちなのだから。つまり三ツ瀬は、死を受け入れるためのモラトリアム(猶予期間)の場所ということになる。

 実際のところ、死んだらどうなるのかは誰にも分からないのだが、この映画には、もしこういう場所があれば、震災などによって不意打ちのように命を奪われた人たちや、大切な人を失った人たちにとっては、わずかながらも救われる思いがするのではないか、という願望が込められているのだろう。これはファンタジーでなければ表現できないことだ。

 ただし、実際に震災で大切な人を失った人たちがこの映画を見たらどう感じるのだろうか、素直に受け入れられるのだろうかといった疑問は残るのだが、その半面、こういう映画が出てくるまでに10年かかったのだという感慨も浮かんだ。

(田中雄二)

 

  • 1
  • 2
 

Willfriends

page top