【映画コラム】野球を媒介に人と人とのつながりの大切さを描く『アゲイン 28年目の甲子園』『KANO~1931海の向こうの甲子園~』

2015年1月17日 / 16:57

 くしくも新旧の阪神甲子園球場がクライマックスに登場する映画が相次いで公開される。

(C)重松清/集英社 (C)2015「アゲイン」製作委員会

 17日公開の『アゲイン 28年目の甲子園』は、元高校球児が再び甲子園を目指す“マスターズ甲子園”を背景に、彼らの青春時代の“ある事件”の謎解きの要素を絡めながら、中年の男たち、そして父と娘の再生を描く。

 公開日の17日は20年前に阪神・淡路大震災が発生した日。劇中には阪神・淡路大震災や東日本大震災に遭いながらも、困難を乗り越えて立ち上がろうとする人々の姿も描かれる。

 そんな本作のキーワードとなるのは、キャッチボールと犠牲バント。そして一球入魂ではなく一球“人“魂(この言葉の意味はぜひ映画を見て確かめてほしい)。ラストシーンでキャッチボールを通して父と子の和解を描いた『フィールド・オブ・ドリームス』(89)をほうふつとさせる場面もある。もちろん美しく撮られた甲子園球場も見ものとなる。

 監督、脚本の大森寿美男は、箱根駅伝を描いた『風が強く吹いている』(09)に続いて、スポーツを媒介にしながら、人と人とのつながりの素晴らしさを描いている。

 

(C) 果子電影

 24日公開の『KANO~1931海の向こうの甲子園~』は、1931年、日本統治時代の台湾から甲子園に出場し、決勝まで勝ち進んだ嘉義農林学校(通称カノ)の日本人、台湾人(漢人)、台湾原住民による混成野球部員と監督の近藤兵太郎(永瀬正敏)との知られざる物語を実話を基に描く。

 30年に台湾で起きた抗日運動「霧社事件」を描いた『セデック・バレ』(11)のウェイ・ダーションが、今回は日台の交流を描いた本作をプロデュースした。監督は本作がデビューとなったマー・ジーシアン。

 3時間余りの大作だが、見ていて飽きることはない。歴史の中に埋もれた実話への好奇心を刺激されると同時に、カノの部員たちのひたむきでけなげな姿にも心を打たれるからだ。こちらは映画のためにわざわざ造ったという“初代の甲子園球場”が登場する。

 “直球勝負”のこの2本を見終わった後、あらためて野球は素晴らしいと思わされるが、両作は野球に興味がない人にとっても、人と人とのつながりの大切さを描いた佳作として、存分に楽しめる映画に仕上がっている。(田中雄二)


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